第486話 ミロッカの尋問

 有無を言わさず条件付きの石化解除を突きつけられたエルフリーナは、おしっこをチビるほどに震えた。不敵な笑みを浮かべたミロッカは、石化進行中のアイリッサのそばに立つと、右手をかざし能力を発動した。


能力封印アビリティ・セールドッ!!』


 ギュアアッッ!


 ミロッカのかざした右手がビスキュートの呪いを吸い込んでゆく。それはダークマター最強、マギラバの戦闘能力を封じ込めた例の激ヤヴァ能力。わずか数秒でアイリッサの右手はもとの白く美しい素肌に戻った。


『ミロッカ様、す、すごすぎ……!』


『私はゴイゴイスー。それはE=mc²と同じくらいあたりまえのことなのよ』


 クセもすごいがポテンシャルも半端じゃなくすごい。エルフリーナはミロッカに尊敬と憧れの視線を向けた。


『あ、ありがとうございました』


『礼には及ばないわ。少しばかりお前に聞きたいこともあるからね』


『聞きたいこと……ですか?』


 ミロッカは顔をしかめ、重い息を吐き出した。尋問が始まった。


『今、なにが起きている?』


『え?』


『お前も腐神じゃないくせに、それなりのパワーを得ているな。その力の由来はなんだ?』


『あのぉ、ふしんってなんですか?』


『質問にだけ答えろ』


『すみません。この力はダークソウルによるものです』


『ダークソウルとはなんだ?』


『私も詳しくは分からないんです。見た目は黒い炎のようなものです』


『それをどこで手に入れた?』


『とある朽ちた教会で、パウルという大魔司教によって施されました』


『パウルの目的は?』


『この世界をディストピアにすること。愚かな人類を駆逐すること』


『パウルかっけぇー』


『私も今日までパウルの思想に共感していました。この悪魔の力で永遠に君臨してやろうって』


『悪魔の力で永遠に君臨か。パウルはダークソウルをどうやって手にしたんだ? なぜ人類をそこまで恨む?』


 エルフリーナは自身の経験を踏まえた上で答えた。


『私は愛のないSEXをする男と、そのSEXに愛があると勘違いしてる女に憎しみを抱いてました。愛なんて幻想だと常に思っていました』


『お前、だるいやっちゃな』


『人や世の中を恨むことは、割と誰にでもあると思うんです。でも、パウルの牙は無差別に、全人類に向けられているんです』


『全人類への恨みか。きしょいな』


『なにが引き金になったのか。私みたいな下っ端には知らされていません』


『知っているやつもいるのか?』


『きっとJudgmentジャッジメントなら知っているんじゃないかと思います』


『ジャッジメント?』


『私が所属する組織の上層部の人間のことです。ミロッカ様が昼間に倒してくれた女もそのひとりだったんです』


『エミリーちゃんのことか』


『そうです』


『あの女の意識を夢意識不法侵入ドリーム・マニュピレーションで探ってみたけど、パウルについてはなにも探れんかった』


『そうだったんですか』


『あのエルリッヒとかいうキモい男も謎だしな。私は今まで生きてきて、ここまでモヤモヤした気持ちにさせられたの初めてだ』


『ちなみにJudgmentはあとふたりいて、そのうちのひとり、セレンって男がさっき言っていたんです』


『なんて?』


『真のJudgmentは自分ともうひとり。エミリーの実力は発展途上に過ぎないんだと』


『まあ確かにあれはできそこないって感じはしたな。ザコすぎた』


『それと、セレンはダークソウルについてもこう言ってました。長年の研究により作り出されたものだと』


『研究だと?』


『もうひとりのJudgment、獅子ヶ辻空白という女が作ったらしいんです』


『なるほど。セレンと獅子ヶ辻か。じゃあ、そのふたりをぶちのめして意識を探れば、すべてがはっきりするかもしれないわけだ』


『そ、そうですけど、残りのJudgmentはかなり強いと思いますので、ミロッカ様もできるだけ慎重に……』


『お前なめてんのか?』


『ひゃ……!』


 エルフリーナはお尻の穴から尋常ではない殺気が突き抜けるのを感じた。今度は別のものをチビりそうになりながら、すかさず話をスライドさせた。


『ミ、ミロッカ様が私たちと行動してくれたら、そんなに心強いことはありません。ありがとうございます!』


『あ? 誰もそんなこと言ってないんだけど』


『……え?』


『私はいま隠密行動中なんだ。とはいえ、くだらんをしているミューバ人には、私が直々にお仕置きをしてやりたい』


『あのぉ、ミューバ人って?』


『パウルのキンタマ蹴っ飛ばしてやる。泣いて謝るツラをこの目で拝みたい。というわけで……』


『……?』


『ぷひーの石化を解いた代金を頂く』


『だ、代金?』


 ドゴッ!!




























 30分後、ネル・フィードとアイリッサが同時に目を覚ました。エルフリーナは静かに声をかけた。


『ゼロさん、お姉たま、大丈夫?』


「わ、私は一体? 急に意識が飛んで……アイリッサさんは!?」


 ネル・フィードは重い体を起こし、慌ててアイリッサの手を覗き込んだ。


「ネルさん! 私の手、元に戻ってる! やったあ! ぷひー!」


 アイリッサはすべすべに戻った自分の手に頬ずりして喜んだ。


「リーナ、どうやったんだ? すごいじゃないか!」


『ゼロさん、なに言ってるの?』


「えっ?」


『ゼロさんが石化を直してくれたんだよ。やっぱりゼロさんはすごいな♡』


「そ、そうだった? かな?」


「そうだったんですね。ネルさん、ありがとうございます。天使の力もこれで使えます!」


「いやいやいや、ど、どうやったんだっけ? でもよかった」


『うーん♡ よかった、よかったあ』


 ミロッカのおかげで最大のピンチは切り抜けた。気がかりなのはそのミロッカの行方。アイリッサの石化解除の代金とは一体なんだったのか?

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