怠惰な復讐者 セレン・ガブリエル編
第484話 未知と絶望の闇
メルデスが無意識に具現化してしまったビスキュートの攻撃が、天使の力を操るアイリッサの右手に直撃。呪いをかけられたかのように石化してしまった。
さらにその範囲は、時間の経過と共に広がっていく。一刻を争う事態に、ネル・フィードは目を閉じ、心を落ち着かせ、拳に力を込める。
両拳にダークマターが溢れ始める。息を吐きながら、握っていた手をゆっくりと広げ、横たわるアイリッサのそばにひざまづいた。
ネル・フィードは慎重に操作したダークマターの宿る両手で、石化の進行するアイリッサの冷えた右手をそっと握った。
「
ブオオオン……
今、ネル・フィードの手を覆うダークマターは戦闘時に扱うものとはまるで異なる。優しさとぬくもりのこもった暗黒の波動。それをアイリッサの石化部分に流し込んでいた。
『ゼロさん、それは?』
「私に石化を解除することはできないが、暗黒波動でこれ以上石化しないように抑え込むことはできる!」
『さすがゼロさん! すごい!』
ネル・フィードの暗黒波動はアイリッサの右手を包み込み、完全に石化の進行を封じ込めることに成功した。
「よし。うまくいったぞ」
『よかった……』
「最低でも1時間はこの暗黒波動は消えない。石化解除の方法が見つかるまで、これでなんとか時間を稼ぐ」
『でもどうすれば石化を解除することができるんだろう……』
ふたりが安心したのも束の間だった。
ミシミシ……
「な、なんだと!?」
『うそ! そんなことって……』
暗黒波動を嘲笑うかのように、再び石化が進行し始めた!
「そんなバカな! 暗黒波動が無効化されるなんて……!」
『これ本格的にヤヴァいよ! もう右腕がほとんど石化しちゃってる! お姉たま! ねえ、起きて!』
エルフリーナは泣きながら懸命にアイリッサを起こそうとしていた。天使の底力に賭けるしかないと思ったのだ。
「アイリッサさん……」
必死なエルフリーナの姿を見ながらネル・フィードは思った。自分は最強種族ダークマターとして、これまで幾多の星でならず者たちの制圧を行ってきた。圧倒的な力で。
そんな中、宇宙の理と称してミューバで行われてきた腐神を使ったカテゴリーポイントシステムに疑問を抱き、ハイメイザーに反旗を翻す形で全宇宙のミューバを巡り、秘密裏に宇宙の理を廃絶する活動を続けてきた。
確固たる信念に基づき、全責任を己に科し、揺るぎなく生きてきた。ひとりで。
ここ第3ミューバに降り立ったときも思っていた。孤独こそが最高のパートナーであると。愛する人や仲間などは戦いにおいては邪魔なものだと。
アイリッサや闇の能力者の存在。それらがこれまでの価値観や考え方、自分の在り方を、少しずつ変化させていることは自覚していた。
愛する人がいなければ勝てない敵もいる。仲間が自分の力以上のものを発揮させてくれる。これまでに感じたことのない、自分の弱さと向き合う度にそう思った。
第3ミューバに来て本当によかったと思い始めていた。その矢先、愛する人が目の前で石になっていく姿を見て、ネル・フィードは複雑な気持ちだった。
「これだから嫌なんだ……!」
マギラバの忌まわしい過去の記憶が甦りそうになったところで、急激な脱力感に襲われたネル・フィードは、その場に崩れ落ちた。
ガクン!
バタッ!
『ゼロさんまでどうしたの!?』
エルフリーナが訳が分からず混乱していた、その時だった。
ギュアアァァ────ッ!!
ドウンッ!!
スタッ!
『あ、あ、あなた様は……』
エルフリーナは絶句した。涙ぐむ彼女の前に現れたのは希望と幸福に満ちた光。などではなく、未知と絶望の闇。
『はあ? なによそれ、ひどい言われようね』
あの変態ストーカー女が再び、その姿を現したのだった。
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