第282話 パリスヒルへ

 ふたりを乗せた電車はランクフルートを目指して出発した。その車内、ネル・フィードはアイリッサにアウトドア派からの情報をすべて話した。



「なにを考えてるんですかね、その黒翼こくよくのリーマンは。ピンクローザさんも小濱ちゃんもヤヴァいと思いましたけど、ちょっとレベチですね」


 内臓を抜き取り、その遺体をさらに貨物列車に轢かせる。正常な人間には到底できない鬼畜の所業。アイリッサは自分のうんこを描きたいと言っていた小濱宗治が、少しだけかわいく思えた。


「悪魔の力を得ると自分本来の生き方が明確になったと錯覚してしまう。結局はその男の弱さが、今回の猟奇的殺人の引き金になっているんです」


「本来の生き方、弱さか。なんか考えさせられちゃいますね。本当に強い人なんてこの世にいるのかなぁ……」


「そうですね……」



 ガタンッ ゴトンッ


 ガタンッ ゴトンッ













 電車に揺られること1時間半。無事にランクフルートに到着。ここで乗り換えをし、パリスヒルに向かう。


 プシュー!


「やっとこさ着きましたね。ネルさんの大好きなソーセージの街だー!」


「その通り。聖地です」


 ネル・フィードは駅構内の売店でソーセージとビールを買った。自分の為にではない。これから向かう夜空専門の写真家の男への土産だ。


「闇の能力者の情報をもらうのに、手ブラというわけにはいかなかったのでちょうどよかった。ランクフルートのソーセージなら誰もが喜ぶはずですからね!」


「ぷふふ。そうですね!」


 手土産もゲットして、ふたりはついにプランツのパリスヒル行きの電車へと乗り込んだ。


「ここからは少しかかりますね。4時間、私は小説を持ってきましたよ」


「私はスマホでゲームしたりYouTube見たりしてますよ。最近ハマってる動画があって。ぷひひ♡」


「ではお聞きます。その動画とは?」


 びしっ!


 アイリッサは『ぽっちゃり体型の眼鏡をかけた気の弱そうな男』が映る画面を見せながら自慢げに答えた。



「これ、ポンコッツチャンネル。月収20万の底辺サラリーマン。スプラッシュ・カーターの『突撃! 風俗潜入レポート』が超おもしろいんですよ!」



























 ガタンッ! ゴトンッ!















 ガタンッ! ゴトンッ!

















 ガタンッ! ゴトンッ!















「で、では、私は小説を読みますので。アイリッサさんもご自由にどうぞ……」


 ネル・フィードは小説に目を落としながら言った。


「いやいやいや。本当に面白いんですから。無事に戻ってきたカーター君の決め台詞、ファイナル……」

(し、しまった! こんなんだから私はネルさんに女の子として見てもらえないんじゃ!?)


 そんな気がしたアイリッサはおしゃべりをやめ、可愛らしくスマホでゲームを始めた。


 ピコピコッ!


「ぷはぁ……」

(せっかくのお尻作戦が完全に無になるところだった。私としたことが。でも、カーター君の『ファイナル・スプラッシュ!』って面白いんだけどな♡)


 ピコピコ ピコピコッ!










 ペラリ



 ヘルムートの『太陽の残骸』


 ピンクローザが愛したその小説を、ネル・フィードもパリスヒル到着まで黙々と読むのだった。

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