第283話 ブレイクタイム

 プランツ首都、パリスヒル。


 世界的に有名な観光名所のエッシェル塔、ユーカンマーダム大聖堂、ルールル美術館などがあり、アート、ファッション、グルメ、カルチャー、すべてにおいて最先端をいく。大国ウールップに引けを取らない、女子憧れのオシャレな都市なのである。


「アイリッサさん、そろそろパリスヒルに着きますよ」


「ぷ、ふぁい……んんっー! よく寝ますた……」


「まずは昼食をとって、それからシェリーモンシェリに向かいましょう」


「わーい! 本場のプレンチを堪能できる〜♡ ぷひー♡」



 ふたりはパリスヒルに降り立った。建物、街並み、走っている車まで、やたらとオシャレを醸し出していた。


 バドミールハイムとは空気が違う。匂いが違う。人々の表情が違う。全てがハイソサエティー。














 ズルズルッ! ズルズルッ!




「って! なのになんでラーメン屋? ぶうっ!」


「ああ、やっぱり美味しい。パリスヒルにもあるんですね。極東の啜るパスタ。なんちゃって!」


 ズルズルッ!


 アイリッサの希望したプレンチはスルーされ、2日前に食べたラーメンの味にハマってしまったネル・フィードは一直線にラーメン屋に入ってしまったのだった。




「あざっしたー!」




 ラーメンを満喫したネル・フィードと、渋々食べ終えたアイリッサは店を出た。すると道の向こう側にオシャレなカフェがあるではないか。


 アイリッサは、せめてそこでパリスヒルの優雅な雰囲気を堪能したいと思いネル・フィードに詰め寄った。


「ネールさん、私、そのヤベェ闇の能力者と会う前に、ちょっとだけコーヒーブレイクしたいな♡ ほら、あそこにカフェがあるじゃないですか! ほらほら、あそこ♡」


 ぷりっ♡


 アイリッサは少しお尻を突き出して言ってみた。


「そうですね。天使の力を持つアイリッサさんには、少しでも安定した精神状態でいてもらいたいですからね。分かりました。じゃあ、行きましょう」


「やったー!」

(お、お尻が効いたんじゃね?)


 ふたりは『Zucobaズコバ Coffeeコーフィー』の店内へ。



「う〜ん♡ délicieuseデリシャスbonneボンヌ qualitéキャリテ♡」


 アイリッサはホットコーヒーを頼もうと思っていたが、直前でショコラショーに変更した。チョコの甘い香りにうっとりで大満足。


 ネル・フィードも、プランツの高級志向の紅茶の味わい深さに関心しきりだった。


「ねえねえ、ネルさん」


「なんですか?」


「今から行くシェリーモンシェリに住んでる写真家の人って、夜空ばっか撮ってるんですか? 有名な人?」


「あ、ああ。ちょっと待ってください。ハイドライドさんからのLINEに細かく書いてありましたから……」


 ネル・フィードはスマホを取り出し、確認した。


「有名な人なら、私も撮って欲しいなぁ〜、とか思っちゃったりして!」


「ああ、はいはい。割と有名な方のようですね。ナイトスカイフォトグラファー『みちのあかり』という方らしいです」


「みちのあかり? 変わった名前」


 ネル・フィードはさらに、その写真家についてググってみた。そこには生粋のプランツ人の写真が載っていた。


「なるほど。本名ではなく仕事で使っている名前のようですね」


「そうなんだぁ。なんかジャポンの名前っぽいですよね。ジャポンが好きなのかなぁ?」


「で、現在は夜空を専門に撮っているらしいのですが、少し前までは主にを撮っていたみたいですよ。アイリッサさん、準備はできてますか? あはは!」


「あははじゃないですよ! もう!」

(私の裸を他の男に見られてもいいってわけっ? ぷひー!!)


 ネルさんは本当に自分のことを恋愛対象として見ていない。と、少々がっかりのアイリッサであった。

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