第279話 黒い翼

 ピピピピッ! ピピピピッ!


 ピピ……


 朝6時。ネル・フィード起床。


 洗顔を済ませ、ラジオをつける。


 クラシックが部屋に流れる中、朝食の準備に取り掛かる。今日、出会うかも知れない闇の能力者のことを考えつつも、頭の中にはのことがチラついていた。


(昨日から妙にミロッカの夢ばかり見る。まさか、第3ミューバここに来てるのか? そんなはずは……)


 妙な胸騒ぎを感じてしまったせいで、大好きなソーセージの味も少しだけボヤけてしまった。


 ネル・フィードの住むアパートからバドミールハイム駅は徒歩でも10分。


「アイリッサの天使の嗅覚があるとはいえ、早めにシェリーモンシェリに行き、アウトドア派からの犯人の続報を待ちたいところだな」


 朝の定番、お気に入りの紅茶『アミーユ』を飲み、頭をすっきりさせたネル・フィードは早めに駅に向かった。














 時刻は7時。



 アイリッサは目覚めた。


「ぶっひゃあ! もう7時!? な、なんでぇ!?」


 昨晩、アイリッサはターモリ倶楽部の誘惑に負けて、きっちり全部見てしまったのだった。


「うわわ! やっべぇ! とりあえず電話しなきゃ!」



 ぷるるるるるるる ぷるる……



『はい。おはようございます。アイリッサさん』


「おは、おはようございます! あの……」


『ターモリ倶楽部を見たせいで……寝坊したんですね?』


「えっ……?」


『空耳まできっちり見たんですね?』


「うっ! き、貴様っ! な、なぜそれを! くっ!」


『大丈夫ですよ。アイリッサさんの寝坊は計算済みです。でも、出来るだけ早く来て下さい』


「は、はい〜! お待ち下しゃい!」



 プツ……



「さて、さくっとアイリッサちゃん式♡ 時短ナチュラルメイクだけはしてかなきゃ! ぷひ〜っ!」












 ネル・フィードは喫煙スペースへ行き、グロテスクに火を付けた。そして、スマホでシェリーモンシェリについて調べてみた。



「ふう〜……」



 溜息と一緒に煙を吐く。





 シェリーモンシェリはプランツ第3の都市。プランツ南西部に位置し、人口は512,999人。


 過去に大虐殺が行われたという暗い歴史を持つ。大戦中はディーツ軍に対するレジスタンス運動の拠点のひとつだった。現在はルーロ圏最大の繊維工業都市として発展著しい。


「51万か。今日中にどこまで能力者に迫れるか。できるだけ捜索範囲は限定したいが……」



 ピコンッ!



 その時、ネル・フィードのスマホにLINEが入った。ハイドライドからだ。





[兄貴! おはようございます! 今からお電話大丈夫ですか?]



「おっ、追加情報か?」


 ネル・フィードは煙草を消し、電話をかけた。


「もしもし。おはようございます。闇の能力者の情報ですか?」


『おはようございます。そうっす、アウトドア派がなかなかの情報を掴んだっす!』


「そうですか。助かります。で、どのような?」


『シェリーモンシェリで連続で起きてる貨物列車事故。犯人は背広を来たサラリーマン風の男。それが防犯カメラに映っていたらしいんす!』


「そ、そうなんですか! ではある程度犯人の目星は……」


『それがですよ兄貴、警察はまだ掴めてないんすよ。犯人の足取りを……』


「他の複数の防犯カメラをチェックして辿ることができなかったのでしょうか?」


『そう思いますよね? でも、その男が映っていたのは、その線路上の一台にのみ。他のカメラには一切映ってないんすよ。街中のどこにもっす!』


「そ、その男は姿でも消せるのでしょうか……?」


『それが違うんすよ。その男は、飛べるんです! 真っ黒な翼で!』


「と、飛べる!?」


 黒い翼の闇の能力者。果たして、見つけ出すことは可能なのだろうか?

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