第393話 8人目の少女

 3年が過ぎ、私は中学生になった。


 私たち家族を崩壊させたネオ・ブラック・ユニバース。最近はメディアを騒がせる事もなく、教団施設『パンドラ』も裳抜もぬけの殻。噂では解散したのではないかとも言われていた。


 『絶対そんなハズはない』


 きっとどこかでトンちゃんが言っていたネオブラの悲願『人類のハイメイザー化』を企んで、密かに活動しているに違いないと私は思った。


 意思を持ち、人の血を吸うテンメツマル。あんなものを所有するカルト。そんなヤヴァい奴らが一筋縄でいくはずがない。私はネオブラへの怒りを胸に、悶々とした日々を送っていた。 








「じゃあねー! アイリッサ!」


「また明日ねー! ぷひー!」


 先週から私達の学校では生徒1人での帰宅が禁止された。それは隣国プランツで起きた『幼女連続誘拐殺人事件』の影響だった。


 既に3人の少女が犠牲となっていた。『過去に類を見ない最狂最悪な事件』……ニュース、新聞、各メディアはそう報じた。


 犯人は誘拐した少女の肉を食べ、残った骨を詰めたダンボールに味の感想を綴った手紙を添えて、少女の自宅前に置いて立ち去っていく。


 『トム』


 犯人はそう名乗った。


 3ヶ月後。最終的に7人もの少女の命を奪った最狂最悪な事件も、ついに終わりを迎えた。誘拐された8人目の少女が、自ら警察にトムの居場所を伝えに来たんだ。


「なんでその子は助かったんだろ?」


 これまで完全犯罪の勢いだったトムの突然の逮捕。私は疑問だった。でも、少女の口から詳細が語られる事はなかった。


 犯人はネオブラだと私は思っていた。でもトムはネオブラじゃなかった。真面目な医療機関の研究員。


『彼はとても真面目で優しい人です』


『彼にあんな犯行ができるはずない』


『間違いじゃないんですか?』


 トムの周囲の人間は、口を揃えてこう言っていたらしい。


 私はの母親とトムがダブって仕方なかった。ネオブラには確実に人の心を操る何かがある。トムはネオブラの『何か』だったに違いない。私は勝手にそう思った。


 私たち姉弟きょうだいはネオブラに両親を殺された。絶対に消えてなんかないネオブラを、いつか絶対に見つけ出す。それが私の人生の目的。私の中に宿る不思議な力が、そう心を突き動かす。


 そして、いつか8人目の少女にも会って話がしてみたい。トムと過ごした時間に何が起きたのかを。

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