第394話 接点

 アイリッサの壮絶な過去に、ネル・フィードは驚きを隠せなかった。


「アイリッサさんはネオブラをずっと探し続けているというわけですか?」


「はい。でも、あまりに見つからなくて諦めかけていたんです」


「そうだったんですね」


 そこまで言うと、アイリッサの表情が一変した。


「本当に諦めてましたよ。ネルさん、あなたと出会うまではね」


「私と?」


 シュルルルルルルルルルッ!


 アイリッサが天使の糸を引っ込め、アンネマリーのダークソウルのロックを解いた。


「がはっ! はあ、はあっ!」


「大丈夫かい? マリー」


「う、うん。大丈夫……」


 ネル・フィードは立ち上がり、いつもとは雰囲気の違うアイリッサと向かい合った。


「アイリッサさん。私と出会うまで、とはどういう意味ですか?」


 アイリッサは、心の奥を見透かすような目でネル・フィードを見つめ、確信に迫る一言を言い放った。


「あなたは私の知っているアークマーダー・ネル・フィードじゃない……」


「アイリッサさん?」


「3ヶ月前、突然あなたは変化した。無気力の塊だったはずなのに急に意欲的になった。不思議なオーラも私の目には見えた」


「そ、それは、いい薬と出会ったと話したじゃないですかっ!」


「私の目は誤魔化せない。あなたはあのネル・フィードじゃない。別人ですよね?」


「ちょ、ちょっと待って!」


「あなたの変貌ぶりには、ネオブラに近づける何かがあると私は踏んだ」


「そ、それで突然食事に誘ってきたんですかっ?」


「そうですよ。やっとネオブラに復讐できる日が来た。そう思いました」


「私はネオブラとはなんの関係もありませんっ! 信じてくださいっ!」


 アイリッサが俯き、震え出した。

















「あはははっ! ひっかかったー! 分かってますよー! ぷひー!」


「な、なんですかっ? 騙したんですかっ?」


「でも最初は本当にそう思ってましたよ。モライザ信者でもないし、神は不要だとか言ってたし」


「そ、そうですね。ネオブラと思われても仕方なかったかも知れませんね」


「でも、誘った礼拝にもちゃんと来るし、メルデス神父と話がしたいとか言いだすし、ネオブラの人間がそんな事言うはずないなって」


「礼拝行っておいてよかったですよ。眠たかったですけどー」


「でも、私がネルさんに接触したのは間違いじゃなかった」


「闇の能力者の存在ですね?」


「ネルさんと行動を共にしながら、闇の能力者とネオブラに繋がりはないのかって、ずっと気にしてました」


「闇の能力者のダークソウルとネオブラのテンメツマル、何か繋がりがあるかも知れないですね。いずれ分かる事ですよ」


「そうですね」


 ネル・フィードは努めて穏やかに話していたが、心中はまるで穏やかではなかった。


『ハイメイザー』


 アイリッサの口から本来出るはずのない単語がはっきりと発せられたからだった。


「ふう……」

(ネオブラの悲願が人類のハイメイザー化だと? そんな事できるはずがない。ハイメイザーだぞっ?)


「はあ……」

(それよりも驚いたのは、ミューバ人がハイメイザーを認知していたという事だ……何が起きている?)


「ネルさん?」


「ふうっ!」

(ネオブラと闇の能力者。きっとこの2つには接点がある。謎の悪魔の力の正体に迫れるかも知れないぞっ!)

 

「ネールさんってばーっ!」


「あ、はいっ! なんですか?」


「さっきは少しムキになっちゃって、この子のダークソウル取り出そうとしましたけど、ネルさんが言うならやめようと思います」


「アイリッサさん。ありがとう。分かってくれると思ってましたよ」


 アイリッサはしゃがんでマリーの頭に手を置いた。


「お互い心に傷を持つ者同士、短い間かも知れないけどよろしくね♡ 世の中さ、悪い大人ばっかじゃないから」


「お……」


「ネルさんの言う通り、少しでも『愛』ってやつを知って欲しいからさー。あまりつんけんしないで甘えちゃってもいいんだからねっ♡」


「お……」


「あははっ! 私バカだからさー、たいした事はできないと思うけどっ……」


 アイリッサはマリーに悪態をつかれるのを覚悟で最大限に優しい言葉をかけた。どうせまた『うるせー』『気安く触るな』『口がくせーんだよ』このぐらいは言われると思っていたのだが。












「お、お姉たまっ♡」


「え? なんて?」


 ハグッ♡


 マリーはアイリッサに抱きついた。


「マリーはアイリッサお姉たまの虜になっちゃったんですー♡」


「んげっ!? な、なんて?」


「お姉たまは、かっこよくて、優しくて、柔らかいっ♡ すっごく落ち着くんですー♡」


「な、な、な、な、なっ!?」


「男なんてそもそも臭いし、ゴツゴツしてて気持ちよくなかったし! お姉たまはすっごい気持ちいいっ♡ 私が求めてたのってこれなんだぁ♡」


「ちょっ、えーっ?」


 くんくんっ♡


「あー、いい匂いっ♡」


「ネ……ネルさん。これ、どーしよ」


 アイリッサのAカップのお胸の匂いを嗅ぎながら、マリーは初めて愛に包まれている気持ちになれた。




驚愕の記憶!アイリッサの過去編 完

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