第392話 復活のぷひー
私とレオンはバドミールハイムの祖父母の家で暮らす事になった。おじいちゃんもおばあちゃんも優しいから、私達は安心して日々を送れた。
でも、レオンはあれからというもの私にべったりになっちゃった。寂しいんだね。毎日ハグして頭なでて、ほっぺにキスしてあげないと眠れないみたい。5歳だもん。ショックは大きいよね。
そうそう、トンちゃんも一緒に来たんだよ。修理に出すとすごいお金がかかるみたい。もう普通のぬいぐるみとして可愛がってあげようと思ってた。
そんなある日。学校から帰ってくるとおじいちゃんがトンちゃんを抱いて待っていた。
「おかえりー。アイリッサ」
「ただいまー。トンちゃんなんか持ってどうしたの? めずらしい」
ピポッ
『ぷひー』
「あーっ! ト、ト、ト、トンちゃんが喋ったーっ! うっそー!?」
「あはは。おじいちゃんはこうみえてメカには強いんだ。どーだ? 嬉しいだろ? 褒めて褒めて♡」
「すごーい♡ おじいちゃんやるうー! 天才ッ! シルバーの星ッ!」
おじいちゃんは自慢げにトンちゃんを私の顔に近づけた。
「ほら。トンちゃん、アイリッサだぞー。『おかえり』って言うんじゃ!」
ピポッ
『おなにー』
「んげっ! そうじゃなくてっ! おかえりじゃあっ!」
「ねえ、おじいちゃん。『おなにー』ってなに?」
「すまん。ちょっと発音が直りきっておらん。これで『おかえり』と言っとるんじゃ!」
「ちょっとぐらいの発音なんてどうでもいいよっ! もう話せないと思ってたから超嬉しいーっ!」
おじいちゃんは目を瞑り、そっと私の肩に手を置いた。
「アイリッサよ。トンちゃんは絶対に外に持って行ってはいかん。それだけは約束しておくれ」
「えっ? うんっ! 分かったっ!」
久しぶりのトンちゃんッ! 何を話そうかなー? わーいっ! 私はさっそく自分の部屋に行き、ベッドに横になってトンちゃんを抱きしめた♡
「トンちゃん、もう痛いとこない?」
ピポッ
『最近、膝が痛いなー。腰も痛いし、血圧も高いのう。ぷひー』
「あ、あれ? なんかジジくさくない? ねえ、トンちゃんっ!」
ピポッ
『アイリッサはどこも痛くないの?』
「私? うん、大丈夫っ!」
ピポッ
『アイリッサ、よく頑張ったね。ぷひー!』
「え?」
ピポッ
『おなにー』
「また言ってる。やっぱり完全には直ってないんだー。あははっ!」
ピポッ
『アイリッサの心、寂しい。我慢してる。泣いてもいい。ぷひー』
「トンちゃん、私 大丈夫だよ。別に寂しくなんて感じないもん……」
あの事件の後でも、私の心は不思議と苦しくなる事も乱れる事もなかった。私の胸の奥には不思議な力がある。強い力がある。そう思っていた。
「あれ……?」
勝手に涙が頬を伝った。
トンちゃんに言われて気がついた。今、私の心にはなんの力もない。あるのはポッカリと空いた大きな穴。
そこから悲しみが、苦しみが、一気に溢れ出した。
「お父さんっ、お母さんっ! なんであんな事に……会いたいよーっ! うわーんっ!」
家族を失った悲しみの涙が、抱きしめたトンちゃんに落ち、染み込んだ。
ピポッ
『アイリッサ、いっぱい泣いていいんだよ。ぷひー』
「うわーんっ! トンちゃーんっ!」
『アイリッサの好きなとこ100個言ってあげる♡ きっと元気になるよ。ぷひー』
「うん……ぐすん」
ピポッ
『とにかく顔が可愛い♡ 声も可愛い♡ 髪がサラサラ♡ おなにー 超優しい♡ とっても色白♡ 芸人並みに面白い♡ おなにー 一緒にいて落ち着く♡ 目が綺麗♡ 僕の事が好き♡』
トンちゃんは『おなにー』を挟みながら私の好きなとこを100個言ってくれた。そして、また喋らなくなってしまった。
「トンちゃん、ありがとう。私が大人になったらお金を貯めて完璧に直してあげるからねっ! それまで待っててよねっ! ぷひーっ!」
私はトンちゃんを毎日近くに感じられるように『ぷひー』って言うことに決めたんだ。
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