第397話 Judgment

 ビューティークリニック院長エミリー・ルルー。彼女は変身もしていない車椅子のアンネマリーを見て、エルフリーナと言い切り、裏切り者の彼女に的確な審判を下すと言ったのだ。死刑確定だと。ネル・フィードは不快感を露わにする。


「それを黙ってさせると思うか?」


「あれあれっ? 私の得た情報と照らし合わせると、あなたが噂の『能力者狩り』さんですよね?」


「勝手にそう呼ばれているらしいな」


「そんなあなたが闇の能力者のエルフリーナちゃんを助けようとするのは、なぁぜ? なぁぜ?」


 ネル・フィードは、アンネマリーを守るようにエミリーの前に立ちふさがった。


「そもそも私は能力者を狩っているつもりはない。救おうとしているだけだ。この子は、救われることを願った。それだけのことだ」


「じゃあ、もうエルフリーナちゃんにはダークソウルは無用むよう長物ちょうぶつね。返してもらってもいい?」


「返すだと?」


「…………」


 マリーはネル・フィード越しに、言葉を発することなくエミリーを無表情で見つめている。


「ええ、能力者を殺せばダークソウルは自然と放出される。それを私が回収するってことです」


「で、それをどうするんだ?」


「もちろん、パウル様にお渡しして再利用リユースしていただく」


「やはりそんなとこか」


「ピンクローザ、ホラーバッハ、このふたりが死んだにもかかわらず、ダークソウルがどこにも見当たらないのは、なぁぜ? なぁぜ?」


「ふっ……」

(ダークソウルは俺がブラックホールで吸い取った。みつかるはずはない!)


「あれはとても貴重なものなの。どこにあるのか知らない?」


「知らんな」


「あっそ」




 ドオォ────ンッ!!


 バキキキキッ!


 シュウウウッ!!




 エミリーの体から衝撃波が発せられ、足元のコンクリートに無数のヒビが入るっ!


「な、なんだこの力は!?」


「パウル様の役に立てない能力者を生かしておく意味って、あると思う?」


「問答無用と言うわけか!」



 ズギュアアアアッ!!


 ドウンッ!!



 ネル・フィードもダークマターを放出し、マギラバ化。戦闘態勢を整える。


「わおっ♡ それが闇の能力者を上回る未知の力? かなり興味深いです」


『お前のその力は、闇の能力者とは異質だな。一体何者だ? 答えろ!」


 エミリーは鼻で笑った。


「それを言う必要って、あると思います?」


『聞いた俺がバカだったようだな』


 エミリーは髪を耳にかけ、セクシーな微笑みを浮かべ、妖艶な瞳でネル・フィードをみつめる。


「私と一戦交えようという、あなたの低品質な勇気に免じて、ひとつだけ教えてあげてもいいですよ」


『ありがたく聞かせてもらおうか』


「『 Judgmentジャッジメント』私たちはパウル様にそう呼ばれているんです」


『私たちだと?』


「私を含め、Judgment は3人。強力な能力を肉体に有しています」


『その3人は闇の能力者よりも実力が上とでも言うのか?』


 これまでの闘いで、闇の能力者の実力が自分のMAXパワーとほぼ同等であることはよく理解していた。それを凌駕する力があるならば、その状況はすでに『打つ手なし』に等しい。


 エミリーは深くため息をつきながら、額に右手の甲を軽く当て、呆れた表情を浮かべた。


「馬鹿馬鹿しくて答える気もしませんよ。闇の能力者と私たちJudgment では、そもそも存在価値に大きな差があるんです」


 ネル・フィードは乱れそうな心拍を落ち着かせ、エミリーから視線を外すとこなくマリーに問いただす。


『マリー、Judgmentについてなにか知っていることがあれば教えて欲しい』


「ゼロさん。ごめん。なにも知らない。Judgmentなんて聞いたことない」


『分かった。ありがとう』


 キッ!


 ネル・フィードの眼光は、完全な攻撃対象としてエミリーを射抜いた。


『女相手に戦えない』などと、悠長なことを言っていられない状況なのは火を見るよりも明らか。それほどまでに空気を伝わってくるエミリーのエネルギーは凄まじいのだ。


「使えないクズ能力者、さらに謎の力を操るあなた。どちらも目障りです」


 エミリーが白衣の袖を捲り上げ、軽いストレッチを始めた。左の手首には高級腕時計、右の前腕には『Arcanaアルカナ』と彫られたレタリングタトゥー。


『アイリッサさん、マリーと安全な場所に非難して下さい!』


「はい! 行くよ、マリー!」


「ゼ、ゼロさーん!!」


 アイリッサは屋上の出入り口へ急いだ。そして、車椅子のマリーと中に入り、ドアを閉めた。


「ダークソウルは後でゆっくりと回収するとして、まずは能力者狩りのあなたから始末させてもらいます」


『やれるもんならやってみろ!!』

(初っ端から全力でいくしかない!)


 ネル・フィードは闇の能力者を凌ぐ実力を持つというJudgmentを相手に、マリーの命を守りきることができるのだろうか? 

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