第398話 元気ボール

 ガチャンッ!


 ネル・フィードに言われるがままに、アイリッサとマリーは屋上の階段室の中に逃げ込んだ。


「はあっ、はあっ! なんなのよ、あの女は! ヤヴァくない!?」


 慌てふためくアイリッサを見て、マリーはかわいい拳を強く握りしめた。


「お姉たま、私も戦ってくる」


「え? だってもうエルフリーナには変身できないんでしょ?」


「たぶん、まだ変身できると思う」


「な、なんでっ?」


「私の感覚だとまだ少し時間は残ってたはずなんだよね」


「じゃあ、なんで変身とけちゃったの?」


「精神的なことだったのかも……」


「ネルさんは優しくマリーの話を聞いてくれたんだもんね?」


「う、うん」


 暫しの沈黙の後、アイリッサが重い口を開いた。


「マリーとネルさんはさー、本当にちゃんと戦ったんだよねー?」


 アイリッサの顔の筋肉が、すこーしだけピクピクしているのをマリーは見逃さなかった。そして思った。


『お姉たまがゼロさんのことを好きなのは、バカでなければ誰でも分かる』


 マリーは心苦しかったが、この場は『優しい嘘』をつくことを選択した。


「死力を尽くして戦ったよ。だからゼロさんにすべてを話そうって気持ちになったんだよ。お姉たま」

(エッチで死力を尽くした、とは絶対に口が裂けても言えない……)


 それを聞いたアイリッサは、咄嗟にドアのガラス窓から屋上のネル・フィードを見た。


「じゃあ、ネルさんもマリーもかなり体力を消耗してるってことだね?」


「そ、そかもしれない」


「ネルさんヤヴァいじゃん!」


 ブウウウウン……ッ!


 アイリッサは天使の力を両手に集中。バレーボールほどの大きさの光の玉が現れた。


「お姉たまっ、それは?」


「エンジェル・元気ボールよ!」


「元気ボール?」


「この光の玉には元気が詰まってるの。エルフリーナじゃない今のマリーになら、吸収できると思う」


「だ、大丈夫かなぁ? バチッとかならない? 一応まだ闇の能力者だし」


 マリーは恐る恐る指を近づける。


「大丈夫。私には分かるの。お姉たまを信じなさいって!」


 アイリッサの自信満々の口調と笑顔に、マリーは怖気づくのをやめた。


「うん! お姉たまを信じる!」


 ガシッ!!


 マリーは両手でエンジェル・元気ボールをつかんだ。


「マリー! 体に押しこんで!」


「は、はいっ、えーい!」


 ズッ!  ズオンッ!


 マリーはアイリッサに言われた通り、元気ボールをお腹の辺りから体の中へ押しこんだ。


 ズキュキュ──────ンッ♡


 ボォウッ!!


「うわあ─────ッ!!」


 マリーはあまりのみなぎるエネルギーに大声を出してしまった。決して苦しいわけではなく、声が勝手に出てしまったのだ。


「どうマリー? いけそう?」


「お姉たま、いけるに決まってる!」


「よかった。ネルさんを助けて」


 マリーは顔の前で手をクロスっ!


「cute devil power makeupッ♡」


 キュルルルルルルンッ♡


 ピカァッ!!







「マ、マリー、それがエルフリーナなの?」


 アイリッサの前には、超絶スタイル抜群のスーパーかわい子ちゃん『エルフリーナ』がいた。


『どう? お姉たまにも負けないぐらいのかわいさでしょ?』


「私なんか足元にも及ばないよ! モ、モデルさんじゃん!」


 エルフリーナは車椅子から立ち上がると、目を瞑ってエルフリーナでいられる時間を探った。


『残り時間はあと10分。その間にあの人を倒す!』


「あのエミリーって人、かなり自信満々だったけど、倒せるの?」


 エルフリーナはガラス窓から屋上を覗き込こんだ。ネル・フィードとエミリーの戦いが始まろうとしていた。


『ゼロさんにも、さっきの元気ボールをあげてふたりでかかれば、あの人もきっとただじゃ済まないよ』


「期待してるよ。エルフリーナ!」


 ふたりは目を合わせ、階段室のドアに手をかけた。


 死闘が始まる。

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