第6章 それぞれの思い

第36話 友情

 昨晩の腐神との戦いで消耗し睡眠が不足したイバラは、本堂の片隅で仮眠中。藤花は陣平がブラック・ナイチンゲールに入った経緯が気になった。


「そういえば、陣平さん」


「なんじゃ?」


「陣平さんのみことの炎って、何色でどんな特性があるんですか?」


「ワシの命の炎か? 色は黄色じゃ」


「黄色? なんか陣平さんぽい」









 ボボォンッ!







 陣平は、右手に命の炎を放出した。



「不思議なものじゃな。こんな炎、いくら修行しても絶対に出せん」


「そうですね……」


「冥土の土産というやつじゃな。死ぬ前にこんな楽しいもん使わせてもらえてな。ワシは感謝しとる」


「じ、陣平さんって余命、どのくらいなんですか?」


「1ヶ月……」


「ええっ!?」


「かも知れんし、1年かも知れん」


「ハッキリとは?」


「そうじゃ。なにせジジイじゃからのう。ワシも美咲と同じで癌じゃった」


「そ、そうなんですね。あっ! 病院で知り合って? アンティキティラの力を?」


「そうじゃ。病室がとなりでのう。美咲とは仲良くしてたんじゃ♡」


「お互い癌患者として出会ったんですね」


「そしたらある日突然、元気な顔してワシのところに来るもんじゃから、驚いてなぁ」


「アンティキティラの力で癌がなくなったからですね」


「ワシの癌も消してくれるって言うもんじゃから『じゃあ、お願いするわい』と言ったら……正男が来てな」


「アンティキティラさんですね」


「ワシの手を強く握ったんじゃ」


「歯車が……?」


「回ったんじゃ」



 ガタンッッッ!

 

 ギリギリギリギリ……


 ガタガタガタガタッッッ!!






 ボォォオッッッンッ!!








「信じられなかったわい。それまでの体の重さが消え、全身に血液が循環しているのがハッキリ分かるんじゃ」


「すごいですよね。力をもらった直後の心身のたかぶりは。私も実感しました」


「この老いぼれの残りの命。美咲の為に使おうと決めたんじゃ」


「で、ブラック・ナイチンゲールの一員になったんですね」


「そういうことじゃ。ブラチンは美咲が『命を捧げる』この世への最後のご奉仕じゃ。ワシはあの子の為ならなんでもする」








 4ヶ月前




『癌患者』病棟の休憩スペース



 おじいさんが、泣いている1人の少女の頭をなでていた。








「ううっ。おじいさんは怖くないの? 死ぬの……」


「ワシはもう74歳じゃからのう。やりたい放題やってきたし、今は死後の世界がどんなもんか早く見てみたいと思うとるよ」


「私はまだ14歳なのに、なんで私が癌にならなきゃいけないんだろう」


「それはなぁ、美咲ちゃんの『心』が美しいからじゃ」


「な、なんで心が美しいと癌になるわけ? わけ分かんないよ……」


「この地球っちゅう、たまっころはよ。広い広い宇宙の中でもっとも汚い星と言われておるんじゃ」


「地球が汚い?」


「いわば、はきだめじゃ」


「はきだめ?」


「前世の前世、そのまた前世……ワシたちは過ちを犯した。ゆえに、この星に産み落とされた」


「地球人は罪人ってこと?」


「その通りじゃ。その中でも罪が軽く、更生いちじるしい者はいち早くこのはきだめから抜け出せる。苦痛をともなう肉体から離れ、精神世界へと旅立てるんじゃ」


「ねえ、それマジで言ってる? ボケてないよね?」


「ボケとらんわいっ! でも実際、感じたことはないか? この人ってホントに自分と同じ人間なのかとな」


「ある」


「じゃろ? そいゆうクズはいつまでもこの地球ろうごくからは抜け出せん。何度も何度もここで生まれ変わりを繰り返す。時には人、時には虫……なんかにな」


「おじいさんって変な人!」


「ワシはまだ地球ろうごくから抜け出せるか分からんが美咲ちゃんは確定じゃ。新たな世界では新たな出会いも待っておる。死は恐いものではない、安らかなもの。眠るのとさほど変わらん」


「おじいさん、ありがとう。死ぬのは激しく嫌だけど、恐くはなくなってきたよ!」


「ほほっ。ならよかった。ワシはに1回生まれ変わってから、美咲ちゃんのあとを追おうかと思う」


「かわい子ちゃんのペットぉ?」


「あ、あれだけは1度味わいたいんじゃ! 毎日毎日かわい子ちゃんの太ももの上で寝たり、甘えたり、ぺ、ペロペロだってできるんじゃあ!」


「んもおっ! せっかくいい話してくれたと思ってたのにっ! エロジジイっ!!」


「そう、ワシはエロジジイじゃ!」


「なんだか悩んでるのがバカバカしく思え……」


「うひょー♡ 沙織ちゃんじゃー!」


 1人の若い看護師を見つけると、そのおじいさんは追いかけて行ってしまった。


「えっ、ちょっとぉ! はぁ、行っちゃった……」




「今日もエロエロ白衣じゃ!  たまらんのぉう♡ お尻もナイスじゃ!」


「甲賀さん、寝ててください。お尻触ったら、ひっぱたきますよっ!」

 



「あはは。エロジジイ怒られてる!」


 美咲と陣平。2人の間には年齢を越えた友情が芽生えていたのだった。

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