第37話 鬼鬼羅羅

「そうだったんですね」


 藤花は陣平の話を聞きながら思っていた。ただのエロジジイがアンティキティラの力をもらえる訳がない。


 この人は『力』を持つにふさわしい人なんだと。確かにエロジジイだけどなんか憎めない。そんな風に思えてきていた。


「陣平さんもやっぱりブラック・ナイチンゲールの『お仕事』をしているんですか?」


「美咲の『お願い』を聞く。それがワシの喜びじゃからな。ほほっ!」


「イバラちゃんは家賃滞納者とストーカー。美咲ちゃんはリベンジポルノ野郎なんて言ってましたけど、陣平さんはどんな依頼を受けたんですか?」


「ワシか? ワシがきのう処刑したのはな、なんじゃったかな?」


「えー? 忘れちゃったんですか?」


「あ、思い出した! 暴走族じゃ!『鬼鬼羅羅キキララ』とか言う」


「鬼鬼羅羅!? たしか関東最悪とか最狂とか。ふだつきのワルしかいないって、ニュースでも見た事がありますよ!」


「そうなのけ?」


「何人を相手にしたんですかっ!?」


「美咲がな『あれは、ぜんぶっちゃっていいよ』って言うもんじゃからのう。その時いた連中はすべて処刑したな。100人ぐらいはいたかのう」


「そ、そんなにぃっ!?」


「ワシに言わせりゃ砂利ばかり。パンティキティラーの力がなくとも殺れたがな」


「あははは……」

(やめてあげて〜!)


「その連中にリンチ、その挙句に殺された子の母親からの依頼じゃった」













 深夜、とある施設の駐車場。






 ブンブブブブブ……!


 ブォンブォン!!


 ブォンブォンッ!!!



「ぎゃははっ! マジかよ!」


「ああ! 最高だったぜ! あの女っ! やっぱりレイプはいいわ!」



「こないだの薬、また頼むぜっ!」



「おい! 今度はどこに盗み入るか決まってんの?」



 こんな会話が飛び交う『鬼鬼羅羅』の集会場。甲賀陣平は『飛翔』の能力で、上空20mから様子をうかがっていた。


「話には聞いていたが、本当にクズの集団じゃわい」


 すると、1人の男が宙に浮かぶ陣平に気がついた。


「なんだあれっ!? ジジイが浮いてるッ!! 嘘だろッ!?」


「バカか! なに言ってんだ……んあ!? ま、ま、マジだっ!!」


「おいっ! 人が浮いてるっ!! 人が浮いてるって!!」


「見ろ見ろッ! あそこあそこっ!」




「ふぅ。気づきおったか。じゃあ、そろそろ『お仕事』するかの」




 シュ──────ッ!


 スタッ!!




「マジかよ、降りてきたぜ。超能力者か!?」


「異世界の人間じゃねーの!?」


「フライングヒューマノイドか?」


 一様に驚く鬼鬼羅羅のメンバーたち。そんな中、陣平は話し出した。


「頭はどいつじゃ? 出てこい」


「ああんっ!?」


「なんだ、このジジイ!! ぶっ殺すか!?」


「でも空飛んでたぜ。ヤバくね?」


「ここにヘッドの九鬼くき涼太りょうたってのは? おらんのか!?」


「九鬼さんのことを知ってるぞ! このジジイ! なにもんだよ」


「おらんのか? クズの総大将は」






 ガラガラガラ……



「誰がクズの総大将だって?」


 タバコをふかしながら、金属バットを持つ大柄の男が現れた。


「貴様か? 九鬼涼太は?」


「ここはな。老いぼれジジイが来ていいところじゃあ……ねぇんだ」


「ワシも来たくて来たわけではないんじゃがのぅ」


「なら痛い目みる前に帰んな。俺様の優しさだ。ブチ切れたらどうなってもしらねぇからな」


「帰るわけにはいかん。依頼でな。お前らを殺しに来たんじゃ!」



 場の空気が一瞬、固まった。












「あっははははっ! このジジイぼけてますよぉ! 九鬼さんっ!!」


「相手することないっすよ! 俺らでぶちのめしときますんで!」


「なんだこのジジイは! まずは縛り上げるかっ!」


「んで、ボコボコ祭だなぁっ!!」


「好きにしろ。とにかく早く済ませろ。今日は大事な話もあるんだ」


「待て待て。九鬼涼太。お前だけは確実にらんといかんのでな」



 ブチッ!!


 九鬼涼太が、ぶちキレた。




「さっきっから気安く人の名前呼びやがって!」


「だってお前、九鬼涼太じゃろ? いや、『クズ』涼太か?」



「くっそジジイがッッ!!! ぶっ殺すッ!!」



 九鬼が金属バットで陣平に殴りかかる!



 ブンッッ!!




 ボォオォオオウッッッ!!

   




 バシッッッ!!



「なっ! なんだッ! てめっ……」



 陣平はみことの炎をまとわせた右手で、九鬼の金属バットの打撃をあっさりと受け止めた。

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