第112話 カツカレー

 昼食の『正男特製 冷やしぶっかけうどん』を食べ終えたブラック・ナイチンゲールの5人。戦いの地、N県へ向かう時刻を迎えた。


「今日の2匹の腐神を倒して、絶対に牙皇子を引きずりだそうねッ!」


「ブリザードでバキバキに凍りつかせてやるもんねっ!」


「私はミラージュで姿を消して、隙を見てみんなの回復に専念するッ!」


「クロちゃんに負けん様に本家 陣平流を炸裂させてやるわいッ!」


「……やってやるわ!」


 この後の戦いのビジョンは皆で共有できていた。魔亞苦・痛の時の様な展開にはならないように。


「みなさん、勝って帰ってきて下さいっ!」


 正男に見送られ、ブラック・ナイチンゲールは外に出た。と、思ったら美咲がひとり玄関に戻ってきた。


「どうしたんだい? 美咲」


「お父さん。お酒飲みすぎちゃダメだよ」


「えっ?」


「あと、私の事は気にしなくていいから、彼女も作りなよっ!」


「な、なんだよ、急にっ! ほら、みんな待ってるよっ!」


「お母さんも、もう許してくれるよ」


「美咲……」


「お母さんが死んじゃってからも私、寂しくなかったよ。お父さんの料理も最初は激しくおいしくなかったけど、今ではお店レベルだもんね!」


「ははっ、ありがとう」


「お父さんの子供に生まれて、激しくよかった。腐神倒してくるっ!」


「みんなを美咲の力で守るんだよ! 絶対に勝てるっ! うまい晩飯作って待ってるからなっ!」


「うんっ! 今夜はがいいっ! よろしくね!」


「おっしゃ! 了解っ!」


 美咲は、笑顔でイバラの軽トラの荷台に飛び乗った。


「よーしっ! 出発進行よっ!」


 ブブゥゥッンッ!


 ブゥゥゥ───────ンッ!



「じゃーねー! お父さーん!」




 幼い頃に母親を亡くし、本当は寂しかったに違いない。男手ひとつで不器用に育ててきた割には、手のかからない素直ないい子になってくれた。


 美咲の笑顔に救われて生きてきた。


 近頃、愛していた妻にそっくりになってきて驚くほどだった。娘の成長がたまらなく嬉しかった。


 そこへ、突然の癌宣告。


 体から力が抜けた。頭が割れそうに痛かった。涙が枯れるまで泣いた。


 まさか、それを自分の力で治せるなんて夢にも思わなかった。だが、余命は変わらない。娘と過ごせる時間は変わらない。


 それでも限られた時間の中、目的を作り、自分の意思で生き生きと行動する娘が正男は嬉しかった。


『ブラック・ナイチンゲール』


 娘のしたかった事。とても周りに自慢できる事ではなかった。それでも、彼女の生き様を尊重したかった。止める事はしなかった。


 自分に手を振る1人娘の姿がどんどん小さくなっていく。目に入れても痛くない。かわいい1人娘。


 大好物はカツカレー。

























 それが














 正男の見る、最後の美咲の姿だった。


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