第13章 永遠の方舟本部へ
第81話 美咲ナーバス
アフロタワーの屋上から飛び去ったキュートな腐神に気づくことなく、ブラック・ナイチンゲールの5人は戦いを振り返っていた。
「陣さんが戻ってきてくれてよかったよぉ。でも、あのきもサイ、かなりヤヴァかったよね?」
イバラのその言葉に全員が険しい表情を浮かべた。元々ここに来る予定だった2体の腐神が相手だったら、結果はどうなっていたのか。皆、それを考えると背筋に冷たいものが流れた。
「実際にワシはやられてたわけだしな。あの腐神と同レベル、それ以上の奴らがあと8体。命がいくつあっても足りない気がするのう」
「陣平さんを蘇らせた赤い歯車のタトゥー。もう、ありませんしね」
「やはりそうじゃったか。こんな老いぼれを生き返らせるのに使わせてしまって逆に申し訳ないわい……」
それを聞いて、思わず大きな声で藤花が言った。
「なに言ってるんですか! 陣平さんの存在の大きさを改めてみんな分かったんです!」
「およっ? そうかえ?」
「私が最初から
「クロちゃんよ、無理もないわ。つい数日前までただのJKだったんじゃからの」
「そ、そうですけど!」
「能力でワシの体術を身に付けたとはいえ、技の応用や瞬時の状況判断、それは場数を踏まんと身につかん」
「場数……確かにそうですね」
「だがクロちゃんは今回の戦いでも無意識に様々な戦闘スキルを身につけたに違いない。戦えば戦うほど強くなる。それがブラチン最強、黒宮藤花じゃ!」
「だといいんですけど……」
藤花は自分の力を完全に使いこなせるのか、正直不安だった。その不安をかき消すように、真珠は明るく話し始めた。
「でも赤い歯車ちゃんさ、1回でなくなっちゃうとか、今回サービス悪すぎじゃなーいっ?」
「西岡さんの言う通り。1人につき1回、せめて5回は回ってほしかったなぁ。それならもう少し無茶な戦い方もできるのにー。あははっ!」
冗談ぽくそう言うイバラを見て、美咲は顔を曇らせた。
「イバラさん。無茶はしちゃだめ。もう誰も生き返れないんだよ」
「えっ? そ、そうだね、うん」
「みんなも死ぬような無茶は絶対しないで……お願いだから」
美咲の声、表情、そこから伝わってくる本気度。全員が改めて背筋を伸ばす。
生き返ることができたとはいえ、陣平の死が美咲に与えたショックは大きかった。それにより、相当ナーバスになっているのではないかと、皆、心配していた。
アフロタワーでのライノマンとの戦いに、どうにか勝利したブラック・ナイチンゲールの5人は、帰る前になんとか名物のオニオコゼ丼を食べたかったが、やはりどの店もシャッターが下りていた。
帰りの新幹線の中5人は、疲労と安堵の中、一瞬で深い眠りに落ちていった。夢なんて見ることもなく。
無事に風原家に帰宅したブラック・ナイチンゲールの5人。予想通り、夕方のニュースでゼロワールドの動画が放映された。
『こんばんは。ゼロワールド教祖 牙皇子狂魔です。国民のみなさんお喜び下さい。本日、アフロタワーで行われた対決ですが、ブラック・ナイチンゲールが腐神を見事に退治してくれましたよ。強いですね。人類の味方、ブラック・ナイチンゲール』
「牙皇子、まだまだ全然余裕って感じじゃない?」
「自分以外に7人も部下がいるわけじゃからな。あのサイすら捨て駒の可能性もなくはない」
『ライノマンがやられるとは思わなかったですよ。やり過ぎて、命令以外のこともしかねないと思い、監視役をつけておいたぐらいでしたからね。気づいていましたか?』
「監視役? あの戦いを見てた腐神がいたわけ? 気づけるわけないじゃんっ! あんな戦いの最中にっ!」
『腐神
「腐神、斬り裂き? 名前からして危なそうなやつじゃな」
『次の腐神ですが、明日の正午、TK都にある『永遠の方舟の本部』に送り込む予定です』
「永遠の方舟の本部!? お父様とお母様のいるところに腐神がっ!?」
『明日がブラック・ナイチンゲールの命日となる。永遠の方舟本部、すぐに死にたい奴は来い。まあ、来なくても死ぬことに変わりはないがな』
牙皇子の動画はそれで終わった。
「藤花。もちろん永遠の方舟の本部ってとこには行ったこと……」
「あるよ」
「そりゃ、そうよね」
「今年も家族で元日に行ったよ。方舟様の大御本尊様が祀られてるの。全国から信者が集まって新年を迎えられた喜びに感謝して、教祖様の有難いお言葉も聞ける。毎年ワクワクなの」
藤花はテンションが上がっていた。やはりこの数日、禁忌を犯しているとはいえ、染み付いた信仰心が削がれることはない。
次の腐神との対決の場が、永遠の方舟本部と決まったことに驚きはしたものの、早く行きたいと思う気持ちも同時に湧き上がる。
(方舟様に見守られながらの戦いかぁ。お父様やお母様、もしかしたら教祖様にも会えたりするかもっ♡)
明日、永遠の方舟本部にて、藤花は母と数日ぶりの再会を果たす。
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