第293話 one rainy day

 ザァァァァ──────!


 ゴロゴロ……


 その日は朝から酷い天気だった。


 僕とエルザさんはそんな中、他の奴のミスで迷惑をかけた取引先に菓子折りを持って謝りに行く羽目になった。


 車をパーキングに停め、傘をさし、取引先の会社へ向かって歩く。 


「エルザさん。これは僕たちが行く必要あるんでしょうか?」


「これも一端の社会人になる為の試練なのですよ、ホラーバッハ君」




 ザァァァァ─────



 















 一端の社会人。エルザさんの言うになる為に僕は努力していた。そんな毎日だったが、このところプランツでは世間を震撼させる凶悪事件が起きていた。


『幼女連続誘拐殺人事件』


 既に4人の幼女が犠牲となっていた。犯人は『子供を殺して食べた』という内容の手紙を添えて、遺骨を少女の自宅前に置いて立ち去っていくのだという。


 さらにその手紙には、少女の味の感想と親に対する感謝の気持ちが綴られおり、最後に犯人と思われる名前が殺した子供の血で書かれていたのだという。


『トム』


 僕はこのニュースを見ても、さほど心が痛まなかった。それよりもこの『トム』と名乗る人物に非常に強い興味があった。


 トムに自分を重ね、頭の中で凶行を犯す。これを実際に行なっている奴が同じ国内にいると考えるだけで胸が高鳴り、興奮した。


 こんなこと、エルザさんには口が裂けても言えやしない。


 横断歩道の信号が青に変わった。


「さっ、行こ。ホラーバッハ君」


「あっ、はい」


 僕の3歩先をエルザさんが歩く。道の向こうに取引先の会社が入ったビルがある。雨はその強さを増していた。

















 ズガンッ!!



 ブアオッッ!!



 僕たちの右手で耳をつん裂く衝突音がした。それとほぼ同時に大型トラックが僕の目の前を歩くエルザさんを巻き込みながら猛スピードで横切った。


 鉄の塊がエルザさんを一瞬で僕の視界から消し去ったのだ。


「エルザさ……」








 ドッカンッ!!


 ガッシャ────ンッ!!


 シュウウウウウ……


 










 ザァァァァ────



 僕はなにが起きたのか分からなかった。いや、認めたくなかったんだ。交通事故で大好きな人を失うなんて、そんなアホみたいなことを、認められるはずがない。


 僕はゆっくりと工場のブロック塀に突っ込んだトラックに向かって歩いていった。雨で濡れたアスファルトには、エルザさんの血が小川のようにトラックに向かって続いている。


「神様、こんな、こんな、僕の大好きな人を、なんで……」 




 ザァァァァ────



 



「エルザさん、エルザさん、エルザさん……」

 

 いつものあの笑顔を見たい。僕の腐った心を優しく包み込んでくれたクリームパンみたいな手を握りたい。


 僕はトラックの下を覗き込んだ。


「エルザさ……」




































「うわああああぁぁあぁああああぁあ──────────────────────────────────ッ!!」



































『次のニュースです。本日、14時頃、モンペトクワの交差点で、信号無視の大型トラックが車と接触し、その後、道路を横断中の歩行者を撥ねました。撥ねられたのはエルザ・ジルベルスタインさん22歳。病院に搬送されましたがしました』

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