第98話 5年前

 衝撃の事実がカテゴリー2ツーのガルトッド人、弥勒院はぐれからさらに語られる。


「カテゴリーの高い世界は規律正しく統制され、犯罪はほぼ不可能。なのでミューバで好き放題してやろうと考える存在が時々出てしまうのです」


「そ、そうなんですね」


「カテゴリーが高いから人格者とは限らないわけです。そういう輩はと呼ばれ、軽蔑される存在なんです」


「はぐれ者? 教祖様の名前『はぐれ』って……まさか?」


 イバラがすかさずツッコんだ。


「気づいちゃいました? 腐神のように傍若無人を働きたくてミューバに来たわけではありませんが、ここにいる時点で、私も十分『はぐれ者』なのです」


「では、永遠の方舟とはあなたのお遊びなのですか?」

(嫌な予感、当たっちゃうの?)


 藤花は恐る恐る聞いた。


「ええ。でした。この世界には過去のお遊びの影響で『終末思想』というものが根付いていましたから。それを利用して私も教祖という立場になり、崇められるという快感を味わってみたいと思った訳です」


「そ、それが、永遠の方舟……?」

(私、弄ばれてたのね……)


「なんとも困った教祖様だったわけじゃな。快感とはのう」


 ここで弥勒院はぐれの話す声のトーンが変わる。


「そんな私がこのミューバに来て15年目。今から5年前のある日。小さいながらも強力な悪のパワーを感じ取ったのです」


「5年前? 強力な悪のパワー? それは腐神、なのですか?」


「腐神の正体。それはカテゴリー1ワンの悪意を持った者の成れの果てなのです」


「悪意を持ったカテゴリー1っ?」


「あまりに穏やかで、平和で、刺激がない精神世界。そんな中で彼らは気づくのです。ミューバでならなにをしても構わない。騙そうが、傷つけようが、破壊しようが、殺そうが。だってなのだから、と」


「ひっどい。バカじゃん、カテゴリー1っ!」


「ですよね。その発想が芽生えてしまった時点で、もうカテゴリー1ではいられないわけです」


「でしょうね」


「肉体のない、苦痛のない、精神生命体だったその存在は、徐々に泥のようになり腐り始め、苦痛を伴いながら宇宙を彷徨い続ける……」


「は、激しく気持ち悪い」


「そして、自然とミューバへと流れ着くのです。人体との融合。それが彼らの最後のユートピアなのです」


「勘弁して欲しいわあ……」


「ですが、そう簡単には人間とコンタクトは取れない。腐ったとはいえカテゴリー1と8の溝は大きいのです。あなた方がミジンコと意思疎通が図れないのと同じ道理です」


「そ、それはバカな私にもかなり分かりやすい例えだわ……」


「は、激しく私も……」


「まさか、その5年前に突如現れた腐神というのは……」


 藤花は混乱しながらも核心に迫る。


「5年前に私が感じた強力な悪のパワー。それが現在、次々と腐った精神生命体とコンタクトを取っている。つまり……」


「残酷神 牙皇子狂魔は、5年前から地上に存在していたということ!?」


 藤花の声に皆、唖然とした。


「あの時に私が感じた力が、残酷神で間違いないと思います」


「じゃあ、なぜすぐに人類滅亡ゼロワールド計画を始めなかったんでしょうか? 5年もどこでなにを……」


 弥勒院はぐれは目を瞑り、一呼吸してから驚愕の可能性を語った。











「考えられる可能性としては、コンタクトをとった相手がまだ幼い子供だったのではないか、ということです」


「そ、そんなっ……!」


「なんじゃとぉっ!」


「子供? 子供が腐神とコンタクトとれるの?」


「なかなかだとは思います。腐神とは強い絶望や野望を抱いた人間に契約を持ちかけるのです。未成熟な子供に近づくことはまずありえません。ですが、今回はそうとしか考えられないのです」


「仮に子供が腐神と契約を交わしたとして、本格的に動き出すまでの5年間、残酷神はどのような状態だったのでしょうか? その子に悪影響は?」


「多分ですが、ジッとその子の体内で潜んでいたのだと思います。その子が十分に成長し、自分の力がきちんと発揮できるようになるまで……」


「うげー。マジで? 腐神に寄生されたまま生活とか、怖すぎ!」


「その子にもがあったということなんでしょうか?」


「でしょうね。でなければ残酷神との契約には至らないでしょう。双方ともに利があったということですね」


「牙皇子狂魔、実は10代ってことなんですね。そんな子供のうちから腐神と契約するなんて。その子は一体なにを考えて……」


 残酷神ネル・フィードは5年前、既に地上に降臨していた。しかも、子供の体内で『その時』をジッと待っていた。


「みなさん。他に聞きたいことはありませんか?」


 黄金の瞳が5人を見つめる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る