第99話 方舟水晶の真実


「ではお聞きします!」


 藤花が先陣を切る。


「あなたは永遠の方舟の信者、いや、信者だったが正解でしょうか?」


「あ、いえ、あの……」

(さっき永遠の方舟は吹っ切ったんだけど。やっぱり教祖様は美しい♡ まさか直接お話しできるなんて萌えるっ♡ いやいや、今は理性を保たなくちゃ)


「で、なにを聞きたいのですか?」


 藤花はドキドキを抑え、尋ねた。


「元・信者としてお聞きしたいのです。永遠の方舟は本当に単なるあなたのお遊びだったのですか? あの教えや思想はなんだったのですか?」


 藤花はずっと信じてきた永遠の方舟に、なにかしらの意味を見出したかった。


 弥勒院はぐれは気まずそうに頭をかきながら答えた。


「あの教えですね、全く意味なんてないんです。20歳まで異性に触れるなとか、食べ物や飲み物も制限してましたけど、あれも別に適当で、赤を意識しなさいって言ったのも、私の好きな色というだけで。ごめんなさい」


 藤花は頭をなにかでぶん殴られたようなショックを受け、脳がクラクラ揺れている感じだった。


「そ、そ、そうでしたか」


「そんな適当な私の言葉が、信者の心に響いたのには秘密がありまして。それが『方舟水晶のネックレス』です」


 はぐれは胸元から自分のネックレスを出すと、皆に見せた。


「そのネックレスにそんな作用が?」


「方舟水晶って私が名付けたんですけど、正体は私の住んでいた惑星ガルトッドの道端に落ちてる石を、それなりに加工して作ったものなのです」


「惑星ガルトッドの石ころ? あんなに綺麗な方舟水晶がですか?」


 藤花は信じられないといった表情ではぐれを見た。


「ガルトッドはミューバからしてみたら『お宝の山』かも知れないです。その辺の石ころが宝石。地面を掘ればすぐにゴールドが出てきますし」


 それを聞いた陣平は合点がいった。


「なるほど。ひょっとしてその宝石なんかを売って、莫大な資産を築き上げたのか?」


「はい。ガルトッドでは誰もそんなもの拾ったり、ほじくり返したりなんてしないので、なので私、かなり変な目で見られましたけど……」


 項垂れる藤花の肩をイバラは優しくポンポンっと叩いた。そして、はぐれに尋ねた。


「教祖様。そのネックレスには信者を洗脳するような効果があったってことなの?」


「いえいえ、誘導や暗示と言ったとこでしょうか。『カテゴリーの高い星』の物が『カテゴリーの低い星』の住人に、なにかしらの影響を及ぼすということは分かっていました」


「そうなんだ」


「ミューバには『呪われた宝石』なんて話もありますよね? 持ち主を転々とする死の宝石。あれも過去に持ち込まれたカテゴリーの高い星の石ころだと思います」


「じゃあ、そのネックレスには永遠の方舟を信じやすくする的な作用はあったってこと?」


「そうですね。なかなか微調整が大変でしたが、理想的な効果のあるネックレスが完成したと思います」


 それを聞いてイバラがポンと手を合わせた。


「私、気づいちゃったかもっ!」


「え? なにに気づいちゃったの?」


 藤花は不思議そうにイバラを見た。


「あれよ、藤花だけアンティキティラの力をもらってもブラック・ナイチンゲールの『お仕事』に対して消極的だったでしょ? そのネックレスしてたからじゃないっ?」


「必殺仕事人的なやつ?」


「そう! アンティキティラの力は躊躇なく悪人を抹殺できちゃうのよね」


「ふむ。アンティキティラの力がをも、方舟水晶がさえぎっていた、というわけじゃな」


「確かに、西岡さんにネックレスを貸してから『殺す』という行為に対する罪悪感が日に日に薄まっているのを感じてました。同時に永遠の方舟に対する信仰心も」

(私の17年は教育的洗練の日々? はわわわわ……)


 方舟水晶のネックレスの真実を知り、驚きと落胆の藤花だった。

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