第100話 びっくりこきまろ

「私もひとつ聞いてもいいかしら?」


 真珠が軽く手を上げた。


「どうぞ。ピンクのお姉さん」


「私が聞きたいのはアンティキティラ人についてよ」


「きましたね。はい」


「アンティキティラ人は、なぜゴミの私たちにこの力を与えたの?」


「いい質問ですね」


「大昔の人類には『文明を築く為』にこの力を与えたって話は聞いたけど。今回はどう考えてもタイミング的に腐神に対抗する為よね? まさかこれもただのお遊びなのかしら?」


「それは違います。アンティキティラ人は特に真面目な種族です。はぐれ者が彼等から出たという話も聞いたことがありません」


「じゃあ、やっぱり腐神を倒せってこと? 人類を救えってこと?」


 ブラック・ナイチンゲール全員、はぐれの返答に緊張感を高めた。


「先ほど言いましたよね? この宇宙には16個のミューバがあると」


「ええ」


「ここ第3ミューバは、カテゴリーが8から7へと上がろうとしている、割と優秀なミューバなのです」


「地球は優秀なんですね。なんかホッとします」


「激しく同意」


「それは、アンティキティラ人の功績によるところが大きいのです」


「ほう。この地球、アンティキティラ人によって守られ、成長してきたと?」


「もちろんです。過去に何度も人類にアンティキティラの力を与え、文明を発展させ、腐神を排除してきたわけですからね」


「そこよ。なんでアンティキティラ人は、そこまで地球に優しいのよ?」


 真珠のその問いに、はぐれは意外なことを語り出した。


「よく聞いて下さいね。16個のミューバにはそれぞれがいるのです」


「担当の異星人じゃと?」


「はい。その担当の異星人にはミューバのという『使命』があるのです」


「カテゴリーを上げる使命? じゃあアンティキティラ人がしていることって、まさかっ?」



 









「そう。です」





「なんとっ!」


「ぷーっ! まじでーっ?」


「うふふ♡ びっくりこきまろね」


「激しく、お仕事?」


「価値観、総とっかえのレベルです。教祖様」







 『お仕事』





 はぐれのまさかの返答に、一同びっくりこきまろだった。


 だが『だとしたら』である。


「だったら、なんでもっと仲間を増やしてくれないの? 歯車のタトゥーも5人で壊れちゃうし、赤いのは1回だけだし!」


 イバラの言う通り、なぜアンティキティラ人は協力してくれないのか? 皆、疑問だった。


「うふふ。それは『バランス』というものです」


「バランス? なにそれ?」


「いいですか? 仮にブラック・ナイチンゲールを100人にします。それで腐神をボコボコにする。それではアンティキティラにはなんのもないのです」


「アンティキティラ人のメリットって一体なんなんですか? 教祖様」


 全員はぐれの返答に全集中した。


「メリット。それはアンティキティラが最高のカテゴリー1になれる。ということです」


「え? そ、それが腐神退治となんの関係が?」


 皆、意味が分からなかった。


「はっきり言いましょう。アンティキティラは自分たちのカテゴリーを上げる為に、ミューバ人に腐神をのです」


「なんで? わけが分かりません! 教祖様、もっと詳しく!」


「ギリギリの戦力で腐神を退治すればするほど、『カテゴリーポイント』が貯まっていくのですよ。分かりますか?」


「ほっほっ! そのへんのスーパーのポイントカードみたいじゃな!」


「ギリギリの戦力で最高の成果を出す? マジでお仕事じゃん」


「要するに、アンティキティラ人は自分たちのカテゴリーを上げるる為に、地球のカテゴリーを上げようとしているということなんですね?」


 藤花は波打つ感情を抑えつつ、静かに問いかけた。


「その通りです。文明の構築、意識改革、腐神の排除。それらを介入し過ぎることなく人類に気付かせ行動させる。それを根気よく続けることにより、ミューバのカテゴリーを7に近づけていくのです」


「それ聞くとカテゴリー8から7への道のりってかなり長いわねえ……」


「そうですよ。この第3ミューバ、実は過去に失敗も経験しているんです」


「失敗じゃと?」


「はい。腐神の強さに対し、送り込んだ戦士の強さが劣ってしまい、人類が壊滅的なダメージを受けてしまったのです」


「そ、そんなことが? その後、世界はどうなったのですか?」


 はぐれは、暫く間を置いて言った。




「……リセットされました」




「リセットっ!? どゆこと? はぐれっち!」


「腐神にめちゃくちゃにされてしまった世界は、担当の異星人が銀河エネルギー砲で更地にするのが決まりです。人類は一度、消滅します」


「そ、それってまさか、人類史、空白の10万年!?」


 藤花はすぐにそれが頭に浮かんだ。


「そう呼ばれたりもするみたいですね。またってやつです。今回はどうなるんでしょうねぇ? うふふ」


 やはり、我々の文明が発展する以前にも、同程度、もしくはそれ以上の文明が地球上には存在し、滅亡もしていた。

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