第147話 残酷神70%

『私は藤花の1番であり続ける』


 それが当たり前だと思って生きてきた。私の1番は藤花であり、藤花以外は私の中に存在しない。


 中2の冬、アフロタワーでキスをしたあの日から、藤花はさらにかけがえのない人になった。


 ベッドの中で将来も語り合った。大人になったら一緒に暮らそうねって。結婚もしたいねって。抱きあいながら、キスしながら。


 天使イバラが現れてからというもの、私の心はかき乱され、すべてのバランスが崩れ始めた。ため息をつくことも増えた。はっきり言ってツライ。


 そうやって藤花本人に言えばいいじゃないかって? 私はそういうの言えない人間なの。


 藤花には、わがままで弱い自分は決して見せない。だって、わがままで弱いのは藤花なんだもん。


 藤花って、普段からなにがあっても毅然きぜんと振る舞うんだけど、やっぱりどこかもろさを感じる。永遠の方舟にすがって生きているということ自体が、それを顕著けんちょに表している気がする。


 人間、弱いとなにかにすがらずにはいられない。私が強くなって、藤花の中で永遠の方舟を超える存在になる。そう思って生きてきた。


 そのつもりだったのに、この私、百合島杏子が、まさかこんな嫉妬深くて、もろくて、弱っちぃなんて。藤花の神になるどころか、私自身が神にすがっちゃってる。


 そう、残酷神に。















 私はひどく怖かった。ひょっとして天使イバラが死んだら、藤花の中に永遠に刻まれ、愛され続けちゃうんじゃないかって。


「はあっ、はあっ!」


 どうしよう、どうしよう、考えるんだ! 藤花の中に永遠に生き続けるのは私! 藤花と2人で藤花の望む世界で!



 私は日々、過呼吸に襲われながら考えた。そして、ついに完成させた。最低で最高なシナリオを。




 『私は1度、死ぬ必要がある』




 藤花の胸に刻まれる為に。天使イバラを藤花の中から消しさる為に。さらに、藤花の大好きな永遠の方舟を、世界の頂点に押し上げる。


 その2つを同時に叶える方法を私は思いついた。その為には残酷神の力をさらに上げる必要がある。


「ネル・フィード。姿が変わらない様にゆっくりと力を上げてちょうだい。首をちょん切られても死なないレベルまでね」


『首をちょん切られても死なないレベル? となると70%ぐらいか。さすがにそれだと力を発動した瞬間に牙のひとつも生えるだろう』


「マジ?」


『ああ。首をちょん切られても生きているんだ。もはや人ではあるまい」


「確かに」


『首から下の肉体を再生することは可能だ。その代償だ。仕方あるまい。はははッ!』


「『はははッ!』じゃないわよ。こっちは必死なんだから。殺すわよッ!」


『お、落ち着け! では、今からゆっくりと力を移動させていく。70%、肉体再生できるレベルにまで上げていくぞ!』


「どのくらいかかりそう?」


『20日もあれば十分だろう』


「分かった。お願い」






















 20日後。




 残酷神の力を大幅に上げた私は、藤花の愛を独り占めする為に『ゼロワールド計画』を始動する準備に取り掛かることにした。


「藤花、私もっと好きになってもらえるように頑張るから♡」


 7月2日の満開のSAKURAのライブまで、あと10日。私に迷いはなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る