第446話 誕生日会

 僕はラファエルさんと一緒にキッチンへとやってきた。テーブルの上には豪勢な料理がところ狭しと並べられている。ビスキュートが駆け寄ってきた。


「メルデス君だ! わーい!」


「来たよ! すごいね!」


「全部全部、私の大好物なのー!」


 ビスキュートのお母さん、ミネルヴァさんも最高の笑顔で迎えてくれた。


「僕ちゃん、来てくれてありがとう。マリアも大喜びね!」


「おばさん、これよかったら」


「あら……ありがとうね」


 僕は手土産のキャビアの詰め合わせをミネルヴァさんに手渡した。そして、ラファエルさんは僕とビスキュートを隣同士で座らせてくれた。


 僕の前にラファエルさん。ビスキュートの前にミネルヴァさんが座って、誕生日会が始まった。


 僕は椅子にかけたリュックから、プレゼントを出すタイミングをうかがっていた。まだ早いかな。食後でもいいかもしれない。


「マリア、誕生日おめでとう」


「ありがとう。ラファエルさん!」


「マリア、お誕生日おめでとうね」


「ミネルヴァさんもありがとう!」


「マ、マリアちゃん、おめでとう」


「メルデス君もありがとう!」















 ん? 












 なんだ、この違和感。

















 そうか! 分かったぞ!


 ビスキュートは今、『お父さん』『お母さん』じゃなくて、『ラファエルさん』『ミネルヴァさん』って言ったんだ。親のことを名前で呼ぶなんて普通はありえない。僕はひょっとしたら、大きな勘違いをしていたのかもしれない。


 そんな僕の固まった表情を見て、ラファエルさんがもの凄い笑顔で僕の顔を覗き込んだ。


「僕ちゃん、気づいちゃったかい?」


「えっ?」


「あははっ! ラファエル! あまり怖がらせちゃダメよー!」


「お、おばさん?」


 2人の雰囲気が、さっきまでとは全くちがう。かもし出していたファミリー感が一気に消え失せた。


 やっぱりそうだ。間違いない!


 この3人は本当の家族じゃない!


「僕ちゃんは、私がマリアの父親だと思っていたようだね」


「はい」


「そして、ミネルヴァは私の妻、そう思ってもいたわけだ?」


「はい。そう思っていました」


 親子でもなければ夫婦でもない。親戚というわけでもなさそうだ。落ち着け。僕は混乱しかけた頭で冷静に考えた。


 一風変わった生活に思えるけど、何かしらの事情があるに違いない。ビスキュートの笑顔を見れば、不幸だなんて思えない。


 確かSPY×FAMILYとかいうアニメも、偽装家族が幸せに暮らしていたはずだ。この家もそういうことなのかも知れない。


「ねえ、食べようよーっ!」


「そうね。食べましょ!」


「ふむ。いただこう」


「い、いただきます……」


 ビスキュートの一言が、なんとも言えない空気を切り裂いた。僕もひとまず、食事をいただくことにした。


 オニオングラタンスープ、サーモンマリネ、ハッシュドポテト、フライドチキン、ハンバーグ、チェリーパイ、どれも最高においしい。ほっぺたが落ちそうだ。


「ミネルヴァ、そろそろあれを」


「分かったわ」


 ミネルヴァさんが立ち上がり、冷蔵庫の中から一本の瓶を取りだした。そして、4つのグラスに中の液体を注ぎ始めた。


 僕の嗅覚は敏感にそのにおいをキャッチした。目の前で注がれる、その不気味に赤い液体からは明らかに酒のにおいがしていた。


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