第257話 アイリッサの変化

 バドミールハイム自由大学の裏通り。人通りは多くない。故に2人がそのを見つけることは容易だった。


 『小濱おはま宗治むねはる


 絵筆を持つ彼の目はキャンバスを凝視し、真剣な表情で必死になにかを描いていた。


「いた。彼が小濱宗治で間違いなさそうですね」


「あの人が悪魔の力を持つ闇の能力者。かも知れないんですね」


「さて、なにがどうクレイジーなのか。確認しましょうか」


 さっそく小濱宗治に近づこうとしたネル・フィードを、アイリッサが静かに呼び止めた。


「ネルさん。ちょっと待って」


「なんですか? アイリッサさん」


「私、昨日ピンクローザさんの繭に包まれて、って言いましたよね?」


「ええ。言ってましたね。どうせなら胸が大きくなって欲しかった。とか、確かそんなことも」


「ネルさんたら、そんなとこまで聞いてたんですね。えっち♡」


「で? 結局、なにもなかったというのは、勘違いだったんですか?


「そうみたいです。私、今、確信しちゃいました」


「なにを確信したんですか?」


 アイリッサの顔は先程までとは違い真剣そのもの。鼻をひくひくさせながら、驚きの事実を告げた。











「私、が分かる体質になっちゃったみたいなんです」



「悪魔の臭い? そんなものが?」


 さすがのネル・フィードも信じられないといった様子だ。


「あそこにいる小濱君。彼、能力者です。間違いありません」


 アイリッサは小濱宗治をじっと見ながら、そう断言した。


「アイリッサさん、それは彼からその悪魔の臭いがするってことですか?」


「はい、そうです。実は昨日、繭から自力で出た瞬間、ピンクローザさんから独特な臭いを感じてたんです」


「独特な臭い?」


「燃える様な、焦げる様な、でも、すぐに消えちゃったから、ネルさんとの戦いの中で生じた臭いなのかなーと思っていたんです」


「確かに昨日の戦いの中で、炎の様なダークソウルというものを私の術で吸い取りました。とはいえ、そういう臭いまでは感じ取れませんでしたね」


「今、ここに火の気はないですし、彼自体からその臭いが漂っている。ピンクローザさんと同じ臭いが」


「アイリッサさんに、そんな能力が身についていたなんて、体調に問題はないですか?」


「体調はいいんですけど。私もひょっとして闇の能力者に、なっちゃったのかなぁ? って、ちょっとだけ不安です……」


 ネル・フィードはそんなアイリッサの頭にポンッと手を置いて言った。




「いざとなったら私が助けますよ。安心していて下さい」




「ネルさん……」

(ちょっ、この人ってばサラッとかっこいい事ゆー♡ さらに惚れてまうやろー♡)


「じゃあ……小濱宗治、闇の能力者確定という事で。行ってきますね」


「最初は女の私もいた方が警戒されないと思いますッ! 私も行きます!」


 ふたりは、悪魔の力を持つ闇の能力者、小濱宗治と接触すべく、静かに歩み寄るのだった。

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