第138話 手下キボンヌ

 私は中学3年になった。


 4月17日の夜、ネル・フィードが面白いことを言ってきた。


『杏子、腐神が人間界を彷徨っているのを感じる』


「えっ? 腐神が?」


『とはいえ力の程度からして、人間と直接コンタクトを取るには、あと数十年はかかりそうだな』


「ふぅん。それってネル・フィードがさー、間に入って仲介役になったら? すぐにコンタクト取れるの?」


『仲介役だとっ?』


「そそ。人間とその腐神の間に入って、双方と話をするのよ」


『それをする必要があるのか?』


「ふふふ。なーんかいいこと思いついちゃったんだよね、私」


『いいことだと? お前の考えることだ。また、くだらんことを……』


「殺すわよ」


『分かった、分かった。できないことはないだろう。今や、お前が直接コンタクトを取ることも充分可能だ』


「私ね、『手下』が欲しいのよ。いざと言うときの為に」


『いざと言うとき?』


「藤花を守るのに力はいくつあっても構わないのよ。それに私は残酷神。手下を率いてみたいのよ」


『ほう。そんな発想なかったな。そもそも腐神は単独行動だ。仲間意識などは皆無だ』


「そうなんだ。でも人間とのコンタクトを仲介してやるんだし、恩を着せてあとは力でねじ伏せる! ね? ネル・フィード」


『ま、まぁ、私より強い力を持つ腐神など存在しないだろうからな』


「ひとり『打って付け』がいる。そいつに私の手下として働いてもらうことにしようと思う」


 私は明日、その『打って付け』の人物に会うことにした。そいつは3年前、交通事故で両足を失った。


 『加江昴瑠かえすばる


 藤花をいじめた罪として、私が怒りの鉄槌を下したあの男子だ。


 噂によると加江は、中学から町外れの特別支援学校に通っているらしい。


 次の日。


 私は学校を休み、加江のいる支援学校に向かった。昼休み、直接あいつと話をする。きっと絶望の淵を彷徨っているんだろう。腐神の力には絶対に飛びつくはず。


 バスに乗り、1時間。やっと目的地の支援学校に着いた。ここにあの加江がいるんだ。


「加江君のお友達ですか! どうぞ、どうぞ。はい、スリッパね!」


「ありがとうございます」


 加江を訪ねてきた私を快く教員は校内に招き入れてくれた。どんな不審者よりも、ある意味ヤヴァい私をね。まっ、私、超絶かわいいし、警戒なんてされないよねん。


「加江君、お友達が会いに来てくれたよ。久しぶりなんだってね! じゃあ、ごゆっくり」


 私を加江の元へ連れて来ると、その教員はあっさり立ち去った。


「あんた、誰?」


 うわー青っちろい顔。飯食ってんの? 加江は小さな声で私にごもっともな質問をしてきた。そりゃあ、私のことなんて知らないよね。


「私は百合島杏子。あなたと同じ小学校に通っていたの」


「はあ、百合島さん。なんの用? 昼休みは有効に使いたいんだけど」


「随分としおらしい性格になったんじゃない? やっぱり足がない生活には嫌気がさしてるのかなぁ?」


「君にはデリカシーってものがないのかい? 帰ってくれよ。なにしに来たんだよ。まったく」


 加江は車椅子をクルリと方向転換し、私の元から去ろうとした。


「加江君っ! 永遠の方舟ー!」


 私のその一言に、加江は再び私の方に車椅子を向き直し、真剣な眼差しで私を見つめてきた。


「なんの話なんだよ? 俺はどうすればいいんだ? なあ?」


 加江は涙目になっていた。


 へぇ。永遠の方舟に対するこの反応。脈あんじゃん。あんたはね、私の手下になる運命なのよ!


「私は、加江君を救いに来たのです」



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