第63話 ロックオン

「ありがとう! アンティー♡」


「ア、アンティー?」


「アンティキティラって長くない?」


「すみません。『アンティー』で大丈夫ですよ」


「ねぇ、この服は? なあに? ちょっとセクシーでかわいいけどぉ♡」


「西岡さん、その服は……」


 美咲はブラックスーツの事について話した。そして続けてアンティキティラの力についても。


 裏庭に出て、真珠は命の炎を全開放。自分の髪色の能力であるテレパシーと、黒い炎の中から出てくる5匹の蛇、メデューサを操れる事を知った。


「こ、こんな事までっ……!?」


 人間の力を凌駕する怪力と能力。今の自分に必要なものを手に入れた。真珠はそう思った。


「西岡さん、その力を使ってゴミ掃除、したいと思いませんか?」


「ゴミ掃除? なぁに? ボランティア活動的な?」


「私の作った『ブラック・ナイチンゲール』に入って、一緒に悪人をこの世から排除しませんか?」


「ブラック・ナイチンゲール? 悪人をこの世から? 消しちゃおうって事?」


「そうです。悪い人間のせいで理不尽に苦しい思いをしている人達を救うんです。このみことの炎があれば暗殺は可能です。証拠は残りません」


「あはははっ。美咲っち、なかなか過激な少女だったんだね! 見かけによらず」


「残りの命、綺麗に激しく燃やしてみませんか?」


 美咲の真剣な表情と熱い語り口に真珠も真面目に返事を返した。


「私ね、ずっと前からやくざ、反社会勢力ってのが大嫌いでね。あの人達さぁ、完全にイカれてんじゃん? 自分達の作ったクソみたいな価値観の中で酔っててさ、この世の中の癌でしかないと思うわけよ。幸せに暮らしてる人達を時に巻き込んで崩壊させる。ハッキリ言って潰してしまいたい。今の私なら可能よね?」


「激しく可能です」


「うふっ♡ 残りの4ヶ月、反社撲滅キャンペーンといこうかしら」


「と、いう事は、西岡さん?」


「ブラック・ナイチンゲールとして活動しちゃおうかしらね♡」


「ありがとうございます!」


 こうして、西岡真珠は悪人掃討集団ブラック・ナイチンゲール入りを決めた。


 とはいえ、真珠の標的ターゲットは、反社会勢力が主になるのだった。依頼とは関係なく、自主的に反社を消してゆく事となる。


 帰宅した真珠は麗亜の部屋へ直行した。このところ笑顔も出るようになり少し安心していたのだ。


 そして今日、手に入れたアンティキティラの力。恐れるものは何もなかった。真珠は麗亜に問いただした。


「麗亜、なんで学校に行きたくなくなったのか言いなさい。お母さんね、もうすぐいなくなっちゃうの。だから麗亜の事、全部知っておきたいの。教えてくれる?」


「お、お母さんがいなくなる? ど、どういう事?」


「あと4ヶ月で私は死んじゃうの。いい、お母さんは隠さない。大事な麗亜には全部話すわ。この残された時間で私は私のやるべき事をする。その為にも麗亜に何が起きたのかちゃんと知りたいの。だから話して欲しい」


「お母さんが? 死んじゃう? やだよぉー! うそだぁ……」


「麗亜ごめんね。でも私はずっとそばにいるから。強い男になるの!」


 麗亜は真珠に抱きついたまま泣き疲れて寝てしまった。帰宅した夫にも髪色をつっこまれながらも全てを話した。


 夫、浩史を片手で軽々と頭上に持ち上げ、さらに命の炎とテレパシー能力を見せつける事により浩史は全てを信じるしかなかった。


「真珠の余命が4ヶ月というのにも驚いたけど、その力にもかなり驚いてるよ。アンティキティラ?」


「そそ。余命が短い人程、より強力な力を手にできるって事でね。私、最強みたい♡」


「真珠が最強か。そりゃ怖いな」


「そうかもね……」



 翌朝


「お母さん……」


 麗亜の瞳には昨日と違い、強い意志が宿っていた。


「話してくれるのね?」


「うん……」




 麗亜はすべてを母に話した。


「ありがとう。分かったわ。朝ごはん食べるわね?」



「食べる……」






















 カチッ



「ふう〜……」


 午後からのスーパーの仕事を終えて、真珠は外の駐輪場で煙草に火をつけた。何年かぶりの1本だった。




 一向に無くならない『いじめ』


 それをする子供


 そんな子供を生んでしまう環境


「ふうぅ〜……」


 ボウッッ! パラパラ……


 真珠は煙草の煙を1回大きく吸って吐くと、命の炎で残りの煙草を灰にした。


「さて、お仕事に行かなくちゃ♡」


 そう言ってウィッグを外し、ヘルメットを被ると真珠は自宅とは違う方向にスクーターを走らせた。

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