第120話 追憶のヒロイン

 シュボボオウッ!


 美咲は再びミラージュで姿を消した。腐神の殺気だった視線に気づくこともなく。


『へえ、あの子、消えるんだ♡』


『amazing……!!』









 ギュアアアアッッ─────!!


 シュボボオウッ!!


 ブアオッウッ!


「斬咲、あんたの相手は私だッ! 逃げるなッ!」


 藤花が剣の炎を全開近くまで跳ね上げたっ! 腕の重みはないっ! 完全にコントロールできていたっ!


『私は上からものを言われるのが大嫌いなんだよ。ゴミの分際で神の私に逃げるなだと?』


 ジャキイッ!!


 斬咲は刀に変形した両腕を、胸の前でクロスした。


『2度と生意気な口が聞けないように顔面を千切りにしてやるッ!!』


 ズギュンッ!!


 斬咲が猛スピードで突進してきたっ!


「は、速いッ!!」


桜花乱卍おうからんまんッ!!!!』


 シュキャンッ! シュキャンッ!


 シャキンッ! シュキャンッ!


 斬咲の二刀流が乱れ散る桜の如く、藤花に襲いかかるッ!


 キンキンキンキンッ!!


 バシュウッ!!


 キンキンッ! キ───ンッ!


 ズバッ!!


 ブシュウッ!!


「うぐっ!!」


 鋭い斬撃を防ぎ切れず、藤花の左太腿を刃が斬り裂くッ! 鮮血が飛び散ったッ!


『血吸い刀によるパワーアップを果たした私に敵はないッ! 大人しく解剖されろッ! 赤髪ぃッ!』



 その時ッ!!


 ビシュンッ!


    ドカアッンッ!!



『ぐがはあああーっ!!』


 ズザザザザァァ───!!


「大丈夫っ? 藤花っ!」


 イバラの光速の膝蹴りが炸裂っ! 斬咲は血を吐きながら吹っ飛び、頭から地面に倒れ込んだッ!


「イバラちゃん! ありがとっ!」


「私も参戦するッ! あの斬咲をひとりで相手は危険だってば!」


『う、がううっ……!』


 イバラの一撃で意識が朦朧とする斬咲。さらにに、彼女の脳は激しく揺れていた。


『あ、あま……天使、イバラ? ま、満開の、SAKURA、アイドル、わ、私は……」


 フラフラッ!


   ザッ!


 斬咲が呟きながら、ゆっくりと立ち上がる。足元はおぼつかない。


「今、私の名前言ったよね? それに満開のSAKURAって……」


 カチャンッ!


 斬咲の首元から、なにかが落ちた。


「な、なにあれ……」

















 『野苺のネックレス』













 イバラはその特徴的なネックレスに見覚えがあった。全身に冷たい汗が噴き出し、手足が震えた。


 この悪夢のような戦場に、さらに津波のように押し寄せる地獄のような現実と運命。


「間違いない。あれは、めーぷるちゃんの野苺のネックレスッ! めーぷるちゃんが斬咲だったの? そ、そんな、そんなあっ!」


『め、めーぷるぅ? 私が……』


 斬咲が不思議そうな顔をして、なにかを思い出そうとしている。


「そうだよ! あなたはアイドル野苺めーぷる! 思い出して、ほら、私、天使イバラだよ! もうやめて、めーぷるちゃん!」


 イバラは必死に斬咲の目を覚まそうと語りかけた。


『野苺めーぷる? 私はアイドルだったの?』


「そう、そうだよ! 思い出して、めーぷるちゃん!」


「斬咲がイバラちゃんの知り合いのアイドル。そういうこと?」


 藤花はこの非情な運命にも動じることなく至って冷静だった。


「あのカマキリに襲われてアイドルを辞めた子だよ。人生に絶望して腐神なんかに、なんてことなの……!」


「そういうこと。なるほど」


 薄羽陽炎ニイナ宅でのカマキリ騒動。あの時、藤花は『アイドルを守りたい』というイバラの強い信念を見た。


 そして今、目の前にいるのが、その守りたかったアイドル。守れなかったアイドル。


「めーぷるちゃん、目を覚ま……」










『お、おえっ、おええーっ!!』


 斬咲が嘔吐えづき、苦しみ出した。















 めーぷるたぁぁあんっ♡



(や、やめてっ! 来ないでえっ!)



















 うんめぇっ! これがアイドルの唾の味っ! レロレロレロレロっ!



(気持ち悪い、気持ち悪い……!!)























 きひゃあっ♡ なんだこの感触! ちゃんと脱毛してるんだねぇ



(触らないでぇえええっ!!)
































 おっぱい見せてええぇぇっ!!



(死んでよおおおおっ!!)














『うわっ! うがあっ!! うぎゃああああああっ!!!!!』






















 こんなガリガリ、私じゃない……



















 寂しいよ。ファンのみんなに会いたいよぉ……



















 アイドルの底辺。みんな私を下に見る……





















 私はけがれた……




















 あいつを、カマキリを殺したい



















 この世を血に染める……
















 それが、私のステージッ!!
















 私の輝くステージッ!!

















 ズッドォオオオン!!


 ブシュウウウウゥッ!


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴォッ!!



「イバラちゃん。残念だけどこれが現実だよ……」


「めーぷるちゃんッ!!」






 斬咲の筋肉が膨れ上がり、腐臭が立ち込めるッ!


『ギャリリッ! お前ら、絶対に殺すからなっ! 覚悟しろォッ!!』



 そう、野苺めーぷるは死んだのだ。

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