第119話 ブラックマンバ

 斬咲が天滅丸によるパワーアップを果たしていたその時、エクレアの猛攻に真珠は傷ついていた。


「はあっ! はあっ!」


『蛇を出しなよ。武術を使えないアンタにそれ以外になにがある?』


 ドカッ! 


 ビリビリィッ!


「うぐっ!」


 雷撃の乗った打撃は命の炎の防御を簡単に貫き、確実に真珠の体力と精神力を削り続ける。


「はあっ! はあっ!」

(イバラッ! まだっ?)


 真珠は攻撃に耐えながらイバラの『エクレア封じ』の一手を待っていた。


 普通にブリザードを放ってもエクレアには効かない。武闘家特有の巧みな動きで素早くかわされてしまうのは目に見えている。


 考え抜いたイバラは、凍結と燃焼をバランスよく調整し、水蒸気を発生。上空に大きな水の塊を作り、それをゆっくりと冷やしていた。


 じっくり、じっくりと。


 その水の塊の温度は、とっくに0℃を下回っている。本来なら氷になっていてもおかしくはない。


 にもかかわらず、イバラの絶妙な凍結コントロールにより、その水の塊は液体の状態を保っていた。


(そろそろいけるかなっ? よしッ!)


『西岡さんっ! エクレアから離れてっ!』


『待ってたわっ! 了解っ!!』


 ダダダダダッ!!


 真珠はイバラからのテレパシーを受け取ると、一目散にエクレアから逃げる様に走り出した。


『逃げるだとっ? 無意味なっ!』


 呆れかけていたエクレアが、上空の水の塊に気づいたっ!


『それで私を溺れさせようとでも言うのか? バカめっ! 落雷1発で蒸発させてやるっ!』


 バリバリィッ! ビビビビィッ!


 エクレアの右手に雷が宿る。それを見て、イバラは静かに発動した。


氷華乱舞ひょうからんぶ……!」


 バッ


 イバラは天に向けていた手を静かに振り下ろした。水の塊は、幾千の矢の如くエクレアに降り注いだ。


 ザァァァァ───────!!


『雨だと? バカにしやがっ……』


 バキバキバキバキバキバキッ!!


 降りしきる雨が地面に、腐神に当たると同時に、華が咲き乱れるかの様に凍りついてゆくッ!


「氷の華は、静かに咲くっ……!」


『フギャッ! なんだぁっ!?』




過冷却かれいきゃく




 ゆっくりと冷やされた不純物のない水は、衝撃が加わらない限り凍る事はない。


 イバラは小学生の時にしたその実験を思い出して、命の炎でそれを戦いに応用したッ!


 家の冷凍庫でする実験とはレベルが違う。エクレアは全身を凍らされ、完全に動きを封じこまれたッ!


 とはいえ、その時間は限られる! 振りほどかれる前に攻撃をしなくては意味がないっ!


「イバラっ! ナイスッ!」


 ボボォンッ! ボオオウッ!!


 真珠が命の炎を右手に集中ッ! 


「メデューサッ!!」


 ここまでの戦い、このメデューサで一度も腐神にダメージを与えられてはいなかった。


 自分の理想とかけ離れた不甲斐ない戦いぶりへの怒り。愛する夫を失った悲しみ。息子の為に腐神を1匹でも多く始末したい。真珠のその気持ちが、ついに爆発ッ!


「お前らは許さないっ! 絶対にぶっ殺すッ! 消え失せなあっ!!」


 ボボォンッ! ボボォンッ!!


『シャアアアアッ!!』


『シャアアアアッ!!』


  ギュルギュルギュルウンッ!!


 感情むき出しの真珠の怒りにより、命の炎の火力は何倍にもなったッ!


 5匹のメデューサがまとまり1匹になったが炎神大蛇にはならない。黒炎の密度、濃さが今までとは段違いの凶暴さだけが増した1匹の極黒ごくこくの毒蛇と化したっ!


 藤花に次ぐ余命の短さッ! ブラック・ナイチンゲールNo.2! 西岡真珠の真の力が炸裂するッ!


『喰らえッ! 猛毒黒曼蛇ブラックマンバ──ッ!」


 ズッギュアオオウッ!!


『ギシャアッ─────ッ!!』


 真珠の『猛毒黒曼蛇ブラックマンバ


 それは『パワー』『スピード』どちらもエクレアの息の根を止めるのに申し分ないレベルに達していたっ!


『なんだっ? あの強力なエネルギーの蛇はッ!? 話が違うっ!』


 ズッギュアオオオオオオオオオッ!


「西岡さん、すごっ!!」


 イバラが喜んだ瞬間だった。


 ギュンッッ!!


冥恐死遂めいきょうしすいッ!!』


 ズゴゴゴゴォォオッ!!


 ザンッ!!


『ギヒャアッ──────!!!!』


 ブシュ────ンッ!!


 悲鳴のような雄叫びをあげて、ブラックマンバは消え去ったっ!


「そ、そんなぁ、嘘っ!」


「わ、私の猛毒黒曼蛇ブラックマンバが、斬り殺されたっ……!」


 斬咲がブラックマンバを一刀両断っ! 藤花を無視してエクレアを助けにきたのだッ!


『エクレア、気を抜きすぎだ。こいつらをナメてたらだめだ。一気に殺すぞッ!』


『うおおおおおおおっ───!!』


 ガッシャ───ンッ!


 エクレアがイバラの氷華乱舞による凍結を砕いた。


『すまない斬咲、油断した。にしても今の蛇は? 聞いてたのはデカくてのろいって……』


『あんなのは初めて見た。雨が凍るのもね。こいつらまだまだなにを隠してるか分かったもんじゃない』


『確かにそうみたいだな』









 バオオウッ!


「すまんな、美咲。助かったわい」


「大丈夫? エロジジイ」


 隙をついて美咲が陣平を完全回復した。2体の腐神はそれを見逃さなかった。


『ふーん。あのガキから……』


『あぁ、deathあるのみッ!』


 ビビビィッ!! ビビィッー!!

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