第118話 天滅丸のゲップ

 自立し、不気味なオーラを放つ、斬咲の血吸い刀・天滅丸。


『カモン♡ 天滅丸っ!』


 シュンッ! カチャッ!


 刀が再び斬咲の手の中に収まった。そのあまりに異様な光景にも、藤花は全く動じる事はない。


「その刀がなんであれ関係ない。あんたもろとも破壊するのみ。やる事は、何ひとつ変わらない」


『一発蹴りを入れたぐらいで調子に乗っちゃった? 私と赤髪さんとでは、剣技の実力に雲泥の差があるんだよ』


 藤花の朱雀すざくの強烈な蹴りを喰らい、一瞬 狼狽うろたえた斬咲だったが、愛刀を手にし、再び冷静さを取り戻していた。


「私の力は、どんどん進化するっ! あんたは必ず……ここで仕留める!」


 シュボウゥゥッ!! ゴオウッ!


 藤花は、命の炎をさらに集中ッ! 剣の破壊力を倍増させ、陣平流奥義の構えをとるっ!


『しょうがないなぁー』


 カチャッ!


 斬咲も、天滅丸を静かに構える


 その刹那、空気が震えだすっ!


「陣平流っ!! 竜巻たつまき王手飛車おうてびしゃッ!!』


 ドォンッ!! ボオオオオウッ!


『キリリッ!』

(パワーは凄そうだけど、ただの下段からの斬りつけ。余裕でかわせる♡)


  斬咲の意識は下段へッ!


 その時ッ!!


 ビシュンッ!!


『えっ? 消えちゃった……?』


 視線が下がっていた斬咲の視界から、一瞬で藤花が姿を消したッ!


『ど、どこーっ!?』



 ズバッシュウンッ!!


蠍尾旋風さそりびせんぷう─────ッ!!」


 ギュルルルルルルルルルウッッ!!


 藤花は『』して技を切り換えた!


 下段の奥義『竜巻王手飛車』から、一瞬にして、頭上から炸裂する奥義『蠍尾旋風』へ!


 さすがの斬咲も反応が遅れたっ!


『しまっ……!』

(よ、避けきれなーいっ!!)


 ザクゥ──ッ!!


 ブシャアッ!!








 スタッ!!


 赤いショートヘアを炎の様に靡かせ、藤花は華麗に着地。


 剣を持つ右手には、確実とまではいかないものの、それに近い手応えが、はっきりと残っていた。


「よくかわしたね。どんな反射神経してんの? 斬咲ちゃん」



 ブシャアッ! 


     ボトリッ!


 

 斬咲は寸前で蠍尾旋風の斬撃をかわした。辛うじて死なずに済んだものの、左腕は見事に切り落とされ、辺り一面を大量の出血が彼岸花のように染めた。


 ブシュウゥウッ!!


『剣の天才の私が、こんな無様な……だっさい、ダサ過ぎる……!』


「さっきも言ったけど、私は進化するんだよ。相手が強いほどね」


『それ……どういうこと?』


「あんたの身のこなし、太刀筋、間に至るまで、全てを学習したってこと」


『学習っ? なに言ってんの。わけ分っかんない……』


 藤花は髪色の能力『天才』で、斬咲の動きをトレース。陣平流にミックスさせ、技のキレ、スピード、共にレベルアップを果たしていた。


「あんたに勝ちはない。次は首を切り落とす。おとなしく消えて!」


 シュボォォウッ!!


 藤花は炎の刃先を斬咲に向け、トドメをさす意思を明示する。


『……ねえ、赤髪さん』


「黙って。話す気はない」


 斬咲は右手に持った天滅丸を見せながら不敵に笑う。


 カチャリ


『こ、この天滅丸がなぜ『血吸い刀』って呼ばれるか、分かる?』


「興味がない」


『つまり……こういう事なのっ!』


 グサリッ! 


 ブシュウッ!


 斬咲は気でも違ったのか、天滅丸を自分の腹部に突き刺したっ!!


「自決? 違うね。なにっ?」


『聞こえる? この音』













 ゴクッ










 ゴクッ!









 ゴクッ! ゴクッ!




 ゴクッ! ゴクリッ!




 チュウウウウウッ!




 ……ゴックンッ!




「ち、血を飲んでる音っ!?」


『そういうこと。すぐに、地獄を見せて……あげ……る♡』


 シュウウウゥゥッ!


 パラパラ……!


 斬咲は干からび、砂となって消えた。そこに残るは血吸い刀、天滅丸のみ。


『ゲエップ!』


「刀がゲップしたし。キモ。で、どうなるの?」


 藤花が眉間にシワを寄せて見つめていると、天滅丸が小刻みに震え出したッ!


 ガチガチガチガチガチガチガチッ!


「へ、変形してるっ!?」


 天滅丸は徐々に形を変えながら、薄気味悪く上昇していく!




 










 ピカァッ!!










 辺りが眩い光に包まれた。









「うわっ……!」



















 スタッ!










「さっきまでとはだいぶ雰囲気が違うし、少しブスになったね」


『黙れ。ここからが残酷のステージショーの始まりだ。私の輝く場所は、誰にも、絶対にっ! 渡さないッ!!』


 血を吸った天滅丸が姿を斬咲に変えたッ!


「天滅丸に自分を喰わせて同化ね。それでパワーアップしたつもり? くだらないパフォーマンスにしか見えないけど。てゆーか、やっぱり、かなりのブスになったよね」


 斬咲の両腕の肘から下は刀となり、形相も、先程までの可愛いものではなく、悪しき修羅と化していた!


 ブシュウ─────ッ!!!!


 彼女の全身から悪臭混じりの凄まじい殺気が勢いよく噴き出す!


『赤髪ッ! 家畜の餌にもならんように、醜く切り刻んでやるからなっ!』


「ちょ、やたら別人なんですけど!」


 藤花は、かなり引いていた。

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