第225話 面白い人間

 ネル・フィード、アイリッサ、マレッド。3人はラーメン屋『金龍きんりゅう』に到着。今日はたいした行列にはなっていなかった。


「4人しか待ってない。ラッキーですよ!」


 アイリッサは嬉しそうにジャンプして列に並んだ。


「いつもはもっと並んでるんだ? へえ、そんなに美味しいんだね。極東の啜るパスタは」


「マレッドさん、ラーメンと言った方が早いですよ」


 ネル・フィードはすかさず突っ込んだ。


「私はなんでも略すのはどうかと思うんだ。ネル・フィード君はどう思う?」


「お言葉ですが、ラーメンは正式名称であって、略しているわけではないのでラーメンでいいと思いますが」


「ラーメン。なんとも間抜けな響きだと思わないか? 実はね、私はその呼び名があまり好きではない」


「だから極東の啜るパスタって呼んでるんですか?」


「と、言うことだ」


 この人にいくら変人扱いされてもなんとも思わないのは、十分この人も変人だからだとネル・フィードは思った。



「ありがとうござしたー!」



「いらっしゃーせー!」



 店内から客がふたり出た。そして前のふたりが入っていった。


「アイリッサ、この店の名前の金龍。なぜゴールドのドラゴンなのか、分かる?」


「え? なんでだろう?」


 マレッドは立て看板のラーメンの写真を見ながら、少しずれた眼鏡を人差し指で直してから言った。


「私が思うにこの透き通ったスープ。この色がまるで黄金のようではないか?」


「はい。ようですね」


「そして軽く縮れた麺はドラゴンだ。そしてその麺を啜る時、まるでドラゴンが天に昇っていく様に見える。だから金龍って店名だと私は推測するんだが。どう思う?」


「マレッドさん、すごーい。きっとそうですよ!」


「ふふ。そうだろう、そうだろう」


 マレッドは満足気だ。


 そして10分程して一気に5人の客が出てきた。ようやく店内に入ることができた3人。


「いらっしゃーせーっ!」


 ボックス席に通された。アイリッサとマレッドが並んで座り、マレッドの正面にネル・フィードが座った。


 メニューは金龍ラーメンと餃子とライスのみ。3人とも金龍ラーメンを注文。ネル・フィードだけさらにチャーシューをトッピングした。


「にしてもネル・フィード君」


「なんですか?」


「礼拝に行ったことがないとか、君は無神論者むしんろんじゃなのか? それともなんかの実験でもしてるのか?」


「実験の意味がよく分かりませんが、無神論者ではありません。神はいます。ただ『必要はない』と思っていますが」


 ネル・フィードの返答に目を丸くして身を乗り出すマレッド。


「へえ。つまらない人間だと思っていたが、君はひょっとしてかなり面白い人間なのか?」


「いいえ。つまらない人間でしょう」


「ふふ。そうは思わない」


「……」

(ネルさんの面白さに気づいたのは私が最初なんだから。マレッドさんも好きになったりしないよね? もお〜誘ったのはミスだったかなぁ?)



 ラーメンが来るまで、もう少し時間がかかりそうだ。

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