第226話 悪魔の存在

 マレッドはネル・フィードの『神は必要ない』と言う発言に興味津々だった。その姿を見た恋する乙女アイリッサは、内心穏やかではなかった。


「ではネル・フィード君に質問だ」


「はい。なんですか?」


「君は悪魔の存在についてはどう思ってる?」


「悪魔ですか?」


 マレッドの言う悪魔。正直なところネル・フィードはよく分からなかった。神がハイカテゴリーの必要悪、もしくはお遊びなのは知っている。


 悪魔についても少し気になり、本などを読んでみたのだが、人間が神の存在をより偉大なものとする為に、敵手として作り出した完全なるフィクションであると結論づけていた。


「ネル・フィード君。悪魔も神と同じく、この世界に存在しているんだ。私は今、それで非常に困っているんだ」


「悪魔がいる? そして困っている? なにか実害があるんですか?」


 今度は逆にネル・フィードがマレッドの話に興味津々だった。アイリッサも驚いた顔をしている。


「まともな人間に話しても信じてもらえないと思うんだが、君には話してもいい、いや、話したいと思っている自分がいるんだ」


「私はまともな人間ではないですからね。どうぞ話して下さい」


 マレッドはコップの水を一気に飲み干すと、ずれた眼鏡を人差し指で直してから話し出した。


「私には3つ年下の妹がいる。明朗快活で君とは正反対の明るい人間だ」


「素敵な妹さんなのですね」


「妹の名前はピンクローザ。つい1週間前まで隣の大国ウールップで弁護士として活躍していたんだ」


「さらに優秀と。なるほど」


「ピンクローザは1週間前、突然ここディーツの実家に帰ってきた。途中の仕事もあったにもかかわらず、全てを放り投げてだ。責任感の強い彼女からは考えられない行動なんだよ」


「それが悪魔のせいだと?」


「ふふ。それだけで悪魔がどうのこうの言うつもりはないよ。人間誰にでも逃げ出してしまいたくなることもあるだろう。ピンクローザもなにかそうなる出来事に見舞われたのだろうと思っていた。昨日まで」


「昨日まで?」


「妹さんになにかあったっていうことなんですか!?」


 今まで黙って聞いていたアイリッサも、さすがに心配になった。


「それなんだが……」


「はいっ! お待たせしましたー! 金龍ラーメンでーす! チャーシュートッピングの方は?」


「あっ、私です」


 ネル・フィードは軽く手を上げた。





 お約束通り、このタイミングでラーメンを持ってくる店員さんであった。


 マレッドの妹、ピンクローザになにが起きたのか? 次回へ続く。

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