第227話 繭

 店員が3人の前にラーメンを置いて戻っていった。黄金のスープに浮かぶ龍のような麺が、その他の具材と共に光輝く。鶏ガラスープの食欲をそそるいい香りが鼻を抜ける。


「マレッドさん、ひとまず食べましょう。極東きょくとうすするパスタですよ」


「ああ。そうするとしよう」


「私、妹さんになにがあったのか気になって食べられないですよ〜って、食べますけど〜」


 ズルズルッ! ズルズルッ!


「これはうまい。ソーセージに匹敵するかも知れないですよ!」


「でしょ? よかったです。チャーシューもトロトロで美味しい。私もトッピングすればよかったかなぁ」


「アイリッサ、私のをあげようか?」


「マレッドさんチャーシューいらないんですか? 美味しいですよ!」


「実はあまり食欲がないんだ。ラーメンは食べてみたかったからいいんだけどね。ほら!」


 マレッドは自分のチャーシューをアイリッサの麺の上に乗せた。


「あ、ありがとうございます。てゆーか、ホントに妹さんになにがあったんですか?」


 ズルズルッ! ズルッ! ズッ!


 マレッドは啜ったラーメンを飲み込み、ゆっくりと話し出した。


「今から話すことは嘘じゃない。本当の話なんだよ。誰に、どう相談すればいいのかも分からない。相談するべきなのかも分からなかった。それほどまでに私が直面している出来事は、常軌を逸しているんだ」


 ズルズルッ! もぐもぐっ……


 ゴクッ!


「マレッドさん、一体なにが?」


 ネル・フィードはだんだんラーメンの味が分からなくなってきた。


「悪魔のまゆ……」


「え? 繭?」


「繭ってあの昆虫が口から糸を出して作るやつですか?」


「そう、それだよ。ピンクローザは今、自分の口から出したであろう糸で作った繭の中にいるんだ」


 アイリッサの割り箸を持つ手の力が抜けた。そして、ネル・フィードは逆にラーメンを一気に食べ始めた。



 ズッ! ズルズルッ! 


 ズルズルッ! ズズズッ!


「どうしたんだ? ネル君っ!」


「さっさと食べて、集中してマレッドさんの話が聞きたいんですよ!」


 ズルズルッ!


「信じてくれたのか?」


「マレッドさんは嘘つきではありませんからね!」


 ズルズルッ! ズルズルッ!


 ネル・フィードのその言葉に、アイリッサもうんうんと頷いた。


 『悪魔の存在』


 それが事実ならば、神の存在と共にこの世から消し去ってしまいたい。神の引き立て役など無論必要ないのだから。人間に害を成すのならば尚のこと。


 一刻も早く、その真意に迫りたいとネル・フィードは思った。


 ズルズルッ!!

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