第315話 安らかな死を

 マギラバ起死回生のダークマター・サンダーボルトが炸裂ッ!内臓に大ダメージを受けたホラーバッハは虚な目で地上を見ていた。


「うう、がはぁ、はあ……」


「ホラーバッハ、人に戻れ!」


 ネル・フィードは決着はついたと思いながらも警戒は怠ってはいない。


 なぜなら、昨日の闇の能力者、小濱宗治との戦い。ギャラクティカ・バーニング・ブレードと超・極黒邪龍滅殺波の壮絶なぶつかり合い。


 小濱宗治も全身に瀕死の火傷を負ったものの命は助かっていた。正直、殺そうと思わなければ勝てない。そう思わせる程の闇の能力者たちの実力。


 ダークソウルを注ぎ込まれた肉体は相当に強化されていることは間違いない。普通ならば先程のサンダーボルトでホラーバッハは即死していてもおかしくはなかった。


「今、アイリッサさんを呼ぶ。ダークソウルは抜き取らせてもらう」


 そう言うネル・フィードの心の中には、ホラーバッハに対する1つの思いがあった。



 『安らかな死を』



 今、目の前で弱々しく黒翼を羽ばたかせる全裸の男は人を殺した。それも信じられないほどの残忍なやり方で。


 アダルハード・ホラーバッハ


 彼は生まれながらのサイコパスだった。だが、それを必死に抑え、気持ちも新たに社会に出た。


 社会は彼の思い描いていたようなものではなく、黒く歪んでいた。そんな中、一筋の光となるエルザ・ジルベルスタインと出会い、心を通い合わせる。


 しかし、不慮の事故により、その光さえも失ってしまったホラーバッハに、死して尚、エルザは力を与え続けた。


 そして、彼は誰も傷つけることなく12年間 生きてきたのだ。サイコパスではなく、一端の社会人として。


 悪魔の力の誘惑に負けたのは紛れもなく彼自身だ。だが、真っ当に生きてきた彼をそそのかした存在。


 ハンス・エルリッヒ


 ネル・フィードはその男に対する怒りが込み上げていたのだ。


「私はお前を許せはしない。だが、エルリッヒ、パウル、その2人の方がもっと許せないんだ」


「ははっ、僕は許してもらおうだなんてこれっぽっちも思ってはいないぞ」


「ホラーバッハ! 誠実な懺悔と共に眠りにつくんだ。今のお前にはそれで十分だと、私は思う」


「今ままでの僕のした行為を、後悔しながら死ねというのか?」


「そうだ。ダークソウルから解き放たれ、人の道に戻るんだ。一端の社会人として、してしまったことの責任は取らなくてはならない」


「一端の社会人か。もはや懐かしい響きだよ。はは」


「では、アイリッ……」


 ネル・フィードがそう言ってアイリッサを呼ぼうとした時だった。


 バサ、フラッ! バサァッ!


「あんたの思い通りにはなるつもりはない。僕は悪魔のまま、エルザさんの元へ行く。そ、そう決めたんだ……」


「悪魔のまま? だと?」
















 ガタンゴトンッ!



 ガタンゴトンッ!



 ガタンゴトンッ!



 

 2人が見下ろす地上に、貨物列車がやって来るのが見えたっ!

 

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