第316話 物語は止まらない

 『悪魔のままエルザの元へ行く』


 ホラーバッハがそう告げるのとほぼ同時に、眼下に貨物列車が接近しているのが見えた。


「まっ、まさかっ!?」


 ネル・フィードがホラーバッハのしようとしている事に気づいたッ!


「うおわああああっ!!」


 ブウウウウンッ!!





 バッサアッ!! バッサアッ!!


 ホラーバッハの黒翼が見たこともない淀んだ色に輝きだした。そしてその羽ばたきには力強さが戻っていたッ!


「な、なにをっ!?」


「ぼ、僕のダークソウルを全て翼に注ぎ込んだんだッ! もうこれで僕のスピードには誰もついて来れないっ! はぁ、はあ!」


「翼にダークソウルを全て?」


「そうだ、故に、今の僕のは、普通の人間と変わらない。はぁ、はぁ!」


「ホラーバッハ、なぜだ?」


「あはは。僕は死ぬことは何も怖くない。死に方ぐらい自分で選ぶ。天使の施しなどいらないんですよ……」


「やめろっ! ホラーバッハ!!」


「うおわああああッ!!」


 ギュオオオオォォ……!!


 ホラーバッハが黒翼に力を込め始めた。


「ま、待つんだッ!!」


「待ちませんよ。僕のことも、世界の改変も、誰にも止めることはできない。舞台の芝居と同じ、多少間違ったとしても物語は進み続けなければならない……!」


 ブワサッ!! バッサアッ!


「パウル様によるディストピア創生は止まらないッ!! 僕が死んでもこの物語は進み続けるッ! 食い止められるものならやってみろッ! あははははははははッ!」


 ブアッサアッ!! バッサアッ!


 ズギュォォオ─────ンッ!!


「ホラーバッハ──────ッ!!」


 ダークソウル全開の黒翼の羽ばたきで、あっという間にホラーバッハは貨物列車の迫り来る線路に降り立ったッ!!


 スタッ!!


「エルザさん。勝てなかった。内臓勃起くそ野郎でごめんなさい。今、僕もそっちに……」


 キキィィィィ────ッ!!!!

















 グシャアッ!!!!


 突然線路上に現れた翼を持つ全裸の男を回避できるはずもなく、貨物列車はホラーバッハを轢き潰し、300メートル先で止まったのだった。


「くっ! なんてことだ……!」


 ネル・フィードはいたたまれない気持ちで事故現場を見下ろすしかなかった。





 その時ッ!!



 ボオオオオウッ!!



 貨物列車の下、ホラーバッハの遺体があると思われる位置から、黒い炎が立ちのぼり、球状になりながらゆっくりと上昇してきたのだ。


「ダ、ダークソウルかっ!?」


 ホラーバッハの潰れた肉体から飛び出したダークソウルが、行き場を求め彷徨っていたのだ。


「逃がさんッ! ブラックホールッ!!」


 ギュガガガガッ! ズビビィッ!!


(ホラーバッハの中でエルザさん以上の人間に出会えなかった。いや、出会おうとしなかった。それが彼の失敗だったのだろう……)


 ギュオオオオォォッ!!


 ネル・フィードは暴れて逃げようとするダークソウルをすかさずブラックホールで全て吸収した。


「闇の能力者、残り4人。この先どんな悲劇が待っているというんだ!」


 ネル・フィードは重い気持ちを抱えながら、アイリッサとみちのあかりの待つ地上へとゆっくり降りていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る