第317話 みちのあかりの信念

 ネル・フィードが地上に戻ると、みちのあかりがカメラの残骸を見つめながら放心状態でしゃがみ込んでいた。


「あかりんさん? えっと……なにがあったんです? アイリッサさん」


「あ、あのですね……」


 アイリッサは事情をすべて話した。


「そういう事でしたか……あかりんさん。気持ちは分かります。ですが、私たちがやっているのは命を懸けた戦いなんです」


「命を……懸けた……そ、そんなの……分かってますよ……!」


「あなたが撮りたいのは、そんな血生臭いものではないでしょう? ヌードや夜空を撮っていた方だ……やはり美しいものを……」


 ネル・フィードが優しく説得していると、みちのあかりが笑い出した。


「あはははははッ! 大丈夫ですよッ! そんなに必死にならなくても、弁償しろなんて言いませんからッ!」


「ぷ、ぷひっ!」

(あっぶねー、ラッキー♡)


「そういう問題ではなくてですね……あなたのカメラマンとしての……」


 みちのあかりが立ち上がり、地面に散らばったカメラの残骸を踏みつけたッ!


 ガシャッ!!


「しつこいんですよっ! ぼ、僕の撮りたい物なんて誰も興味がないんですッ! いいですか? 世の中はね、不思議で怖いものを見たい人達で溢れ返っているんですよッ!」


「あかりんさん……」












 暫くの沈黙……それを破ったのはアイリッサだった。


「あかりん。見て……あなたがしたかったのはこういう事なの? 今、見つけてびっくりしちゃったけど」


 アイリッサが自分のスマホをみちのあかりに渡した。


「こっ、これは……っ!!」


 スマホにはついさっき、ネル・フィードがブラックホールでダークソウルを吸い取っているであろう姿が何者かに撮影され、動画で上がっていた。


 スマホで撮影されたその映像は画質が悪く、人物の特定はおろか、何が起きているのかもハッキリとしないものであった。


「今の時代……みんなカメラを持って歩いてる。決定的瞬間が撮りやすい世の中だよ……」


 みちのあかりはアイリッサにスマホを返した。


「あはは……その通り。国民総カメラマン時代ってやつですよ。あんなボヤけた動画にですら皆んな喜んで飛びつく……くそっ! 俺ならもっとうまく……」


「違うでしょ? あかりんが本当に撮りたいのは、そんな簡単に皆んなが飛びつくような軽いものなんかじゃないでしょ?」


「そ、それは……」


「あかりんの信念ってやつ……もっと写真に込めるべきなんじゃないの?」


「……!!」


「あかりんが欲しいのはスクープなの? 見てくれた人達の感動じゃないの? 楽な方に逃げてちゃだめだと思う」


「感動……そ、そうだ……僕が欲しいのは……」


「私……家に飾ってあったあかりんの写真……好きだよ。ヌードも、夜空も……」


「そ、そんな……だって、あれは……馬鹿にされ……」


「あの写真はあかりんの信念でしょ? それを馬鹿にする人は写真をちゃんと見ていない人。それだけの事だよ」


 アイリッサの言葉に、みちのあかりはその場に泣き崩れた。


 彼は、自分達には分からない、劣等感や屈辱にまみれた人生を送ってきたのかも知れない。アイリッサとネル・フィードはそう思った。

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