第318話 戸惑い

 ネル・フィードとアイリッサは、みちのあかりの希望もあり、一緒にみちの邸に戻ってきた。


 ガチャ!


「ただいまー!」


「にゃあ!」 「ごろにゃーご!」


 玄関に入ると、レイシアとアリシアが『待ってました』とばかりにじゃれついてきた。


「ただいまー! レイシア、アリシア、お前たちは本当にかわいいにゃあ♡ ぷひー♡」


 ネル・フィード、みちのあかり、2人とも、アイリッサが2匹の猫と戯れる姿に心が癒される。


 3人は、再びリビングのソファーに腰掛けた。みちのあかりが、深々と頭を下げる。


「おふたりとも、闇の能力者との戦い、本当にお疲れ様でした」


「いえ、あかりんさんを守りきれず、死なせるところでした。申し訳なかったです」


 ネル・フィードも、深々と頭を下げた。


「いえ、あれは不用意について行った私がいけなかったんです。完全に魔が差しました。謝るのは私の方です。戦いの邪魔をしてしまい、申し訳ありませんでした」


「いえいえ、私がちゃんとっ!」


「いや! ネル・フィードさんはなにも……!」


 ふたりの男が、交互に頭を下げている姿を見て、アイリッサは少し笑えてきた。


「はいはい。謝り合戦は終わりにしましょ。闇の能力者も倒せたことですし! ね?」


 ネル・フィードは、あっけらかんとしたアイリッサを見て、すっかり忘れていたことを思い出した。


「アイリッサさん!」


「は、はい?」


「今日は本当にありがとうございました。天使の力に救われましたよ」


「え? そ、そんな、スーパーエンジェルとしてあたりまえのことをしたにすぎません。ぷひー♡」


 アイリッサが照れ笑いをしながらそう答えた瞬間だった!


 ギュウ!


 突然、みちのあかりが席を立ち、アイリッサの手を握り、ひざまづき、目を見つめた。


「ぷひっ!? あかりん?」


「アイリッサさん。命を救ってくれて本当にありがとう。そして、私のカメラマンとしての命も救ってくれた。あなたは、本当に天使だ!」


「えー! やめてー! 照れるー!」


 アイリッサがそう言いながらも喜んでいると……











「僕と、結婚してください!」

































 その場の時が、一瞬止まった。




「ぷ、ぷひっ! 結婚っ?」


「はい! だめですか? あなたを幸せにしたい!」


 みちのあかりの突然のプロポーズ。アイリッサよりもネル・フィードの方が動揺する始末。


「な、な、な、な……!」

(ど、ど、ど、どうすればっ!?)


 さすがのダークマターも、こんな時はなんの役にも立たず。キョドるネル・フィードの気持ちも知らずに、アイリッサは少し悩む。


(ネルさんてば、私の事なんて女子として見てないし。玉の輿にのっちゃおうかなぁ?)







 暫く考えた末、アイリッサはみちのあかりの手を、ゆっくりと離した。


「ごめんね。あかりんの気持ちには答えられないの。私、スーパーレズビアンなの」


「レ、レズビ……アン?」


「そうなの。好きな人もいるし。ごめんなさい……」

(私はネルさんをまだ諦められない!)


「そ、そうでしたか。残念です」


「ふ、ふうーっ」

(アイリッサがレズビアンだったとは。好きな人もいる? 職場の人なのか? マレッド? なわけないか! あはは……はは……)


 ネル・フィードは、どんな形にせよ、アイリッサが、プロポーズを断ってくれてホッとした。


  

 










 振られはしたものの、アイリッサに気持ちを伝え、すっきりしたみちのあかりは腕まくりをしてキッチンに立った。


「お2人とも、よければディナー食べていって下さい。あなた達に世界の命運はかかっているのですからね! 力をつけていって下さい!」


「わーい! やったねっ♡」


「あ、ありがとうございます」


 ホッとしながら、ネル・フィードは思っていた。


 自分の中にある、アイリッサへの想い。活動の邪魔になり得るとして消し去る選択をしたのだが、現在、それは消えるどころか膨らみ始めている。地球ミューバに来た当初の自分からは考えられない事だった。


「まいったな……」


「ネルさん? 何がまいったんですか? ぷひっ♡」


「ん? あっ、あー、なんでもありませんよっ! さっ! お手伝いしにいきましょうか!」


「はーい♡」


 ネル・フィードは、今までの自分との違いに少し戸惑っていた。

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