第285話 セレブの炭酸水

 みちのあかりはふたりを広いリビングへと招き入れた。壁には引き伸ばした夜空の写真やモノクロのヌード写真がフォトフレームに収められ飾られている。


「さあ、どうぞ。おかけ下さい」


「みちのあかりさん、これよかったら、ランクフルートのソーセージとビールです」


「え? わざわざありがとうございます。大好物ですよ。今夜にでもおいしく頂かせてもらいますね」


 無事に手土産も渡し、ふたりはこれまた高級そうな革張りのソファーに腰掛けた。


 みちのあかりはソーセージとビールを冷蔵庫に入れると、そのついでに飲み物の瓶を2本取り出し持ってきた。


「おふたりとも炭酸水はお嫌いではないですか?」


「ええ」


「炭酸? 私、炭酸ならコーラが1番好きなんですよね〜!」


「アイリッサさん、申し訳ありません。これはただの水の中に炭酸ガスが入ったものなので、特に味はしないんです」


「そ、そうですよね! ご存じでございますよ!」

(ぷっひー! 炭酸なら絶対にコーラが飲みたいのに。ただの水に炭酸? そんなのなにがうめーんだよ。コーラプリーズ。ぶうっ!)


 みちのあかりもふたりと向かい合ってソファーに腰を下ろした。すると、アイリッサが目を輝かせながら話し出した。


「でもでも、みちのあかりさんの撮る写真は大人気なんですね。こんな豪邸に住めちゃうなんて! 憧れちゃいますよ!」

(私を撮ってもいいのよん♡ ぷひ♡)


「え? いや、私の写真なんてまだまだ。たいして売れてはいないんです。この家も父の特許での収入で購入したもので、お恥ずかしい限りで……」


「そうなんですか。特許……」

(父、すげー! で、やっぱりこいつにヌードは撮らせないことに決定!)


 みちのあかりが両手を組み、ふたりを見つめ、本題に入る。


「それでは、例の翼を持つ男についてお話しします。よろしいですか?」


「はい。ところで、みちのあかりさんはどこまで事情を……?」


「アウトドア派に全て聞いています。それを条件にこちらも情報を提供させてもらいましたので。それから私のことは『あかりん』と呼んで下さい。仕事仲間にもそう呼ばれているので」


「分かりました。では、あかりんさん、翼を持つ男の話、お願いします」


 ペラリ


 みちのあかりは1枚の写真をローテーブルの上に置いた。そこには暗闇を飛び、自宅と思われるベランダに降り立つ黒翼の男の姿が写っていた。


「これが……」


「夜なのに綺麗に撮れてますね。すっごいカメラ〜!」


「私愛用の、超高感度望遠カメラ、ナイトビュー9000でなら、夜でも普通にこのぐらいの解像度での撮影が可能なんですよ」


 写真にうつる黒翼の男は若く見えた。緩いパーマのかかった金髪。背は高く、体格もよく見える。


「イケメンぽくないですか?」


「アイリッサさん、そんなこと言ってる場合じゃないですよ。この男が凶悪犯なのは間違いないのですから」


「この写真は初めて彼を見た日から、4日後に撮影したものです」 


「張り込んだのですか?」


「ええ。恐怖もありましたが、夜空に舞う彼の姿をどうしてもファインダーに収めたくなりまして。まさか殺人を犯しているとはその時は思いもしませんでしたから……」


 みちのあかりは伏し目がちになる。ネル・フィードはさらに聞く。


「ここからさほど遠くない家に、この男は住んでいる。と、いうことですね?」


「300メートルも離れていません。私はここに暮らして長いですが、彼のことはまったく知りません。闇の能力者である彼の暴挙を、あなた方は本当に止められるのですか?」


 ゴクリ


 ネル・フィードは手にした炭酸水を一口飲み、言った。


「もちろんです。私はエクソシストですから」





 ゴクリッ! ゴクリッ!


 ゴクリッ! しゅわわわわぁ……!


 アイリッサも炭酸水を飲んでから言った。


「ネルさんは最強のエクソシスト。そして、私はスーパーエンジェルなのです。げふっ」

(炭酸水……やっぱり、まいずー)

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