第409話 戸惑うミロッカ

 能力者狩りのネル・フィード。


 不思議な光の力を使うアイリッサ。


 Judgmentである自分の肉体を破壊する程のダメージを与えるミロッカ。


 興味、驚愕、脅威。


 それらが心の中で踊り狂っている様に、エミリーは感じていた。


「まさか、今日がこんなカーニバルになるなんて思ってもいなかったわぁ」


『あんたはさ、その祭りの生贄いけにえになるんだ。心の準備、しときなっ!』


 ギュアアッッ!!


 ゴオッ!!


 ミロッカの拳で、ダークマターが獲物を求め、暴れ出す。


「私たちJudgmentが本気を出せば、この地上に敵はない。パウル様はそう仰って下さった」


『パウル様っ! 言うよねーっ!』


 ミロッカはパウルという謎の存在を気にしつつも、余裕の笑みを浮かべる。しかし、その表情は次の瞬間、怒りに変わる事になる。


「黙りなさいっ! パウル様と我々は、なのよっ!」


 カチンッ!


 マギラバと自分を繋ぐ大切な宝物を、自慰行為で汚れた手で触られたような、許し難い感覚がミロッカの全身を塗りつぶす。


『お前らが宇宙の理を変える?……ミューバごときが軽々しくを口にするなっ!』



 『宇宙の理の変革』



 愛するマギラバが、命をかけて成し遂げようとしている崇高なアクションを、下手に力を手にして、勘違いしたバカ猿が口にした。


 怒りは突き抜けると嘲笑に変わる。


『あー、やだやだ。マジでどうやっていびってやろうかなぁ?』


 ミロッカが腰に手を当て目を瞑った。秒にも満たないその隙を、エミリーは見逃さない。


氷結爆撃アイス・ブラスト────ッ!!』


 ゴオオオオオオッ!!


 グシャアッ!!


 ガシャァンッ!!


 ミロッカの左腕が轟音と共に凍りつき吹き飛ぶッ! それでも彼女の表情から笑みが消える事はない。


『本当になにこれ? 腐神以上なのは確実。でも意味わっかんないなー』


「あなたは何も知る事なく、私たちの糧となるのよっ! 死ねぇっー!」


 エミリーは再び氷結爆撃アイス・ブラストの体勢に入ったっ!


『あっそおっ!!』


 ギュアアッッ!!


 ドォウッ!!


 ミロッカが気合いを込めると、凍って砕けた左腕は一気に再生っ! 


 ギュアアッ──────!!


 スペシャルムーブが放たれるっ!


無限爆発リミットレス・バーストッ!!』





 ドガドガドガドガドガドガッ!!


 ドガドガドガドガドガドガッ!!



 ドゴオッ!!


 ズッド────ンッ!!


 シュボオオオオウッ!!



「ぐきゃあああ─────ッ!!」


 燃え盛るダークマターを宿す拳がマグマの如く、体温のない、氷の女の肉体を激しく燃やし尽くした。


 プスプスプス……


「が、があ……何が起きっ……?」


 ボンッ!!


 ズザァッ────!!


 全身丸焦げのエミリーを、ミロッカは無慈悲な前蹴りで吹っ飛ばす。


『まだ殺さないよ。ここからがお楽しみの、拷問ターイムっ!』


「バ、バカな……パウル……様」


 グリャアッ!


 ミロッカは、仰向けに倒れるエミリーの顔面を踏みつけた。


『宇宙の理とか、あんたらミューバにどうこうできる事じゃないでしょ? はったりでしょ? ねえ?』


 グリグリッ!!


「あ、ぎゃあ……!」


『それと、腐神でもないミューバのあんたが、どうやってそんなパワーをゲットしたわけ?』


 ゴリゴリィッ!!


「あ、あぁっ! ぎゃあっー!」


『ぎゃあぎゃあ言ってないで答えてくんないっ? ほらっ! 早くっ!』


 ズガッ! バキッ! グリグリッ!


 消し炭と化し、戦意喪失のエミリーをミロッカは執拗に蹴り続けた。


 敵ではないものの、彼女はミューバ人が異様な力を手に入れている現状が気に食わなかった。不快だった。


 その一方で込み上げる、強者のみが感じ取る事のできる謎の危機感。ミロッカはそれに戸惑っていた。


『ちっ! 早く言わないと、殺すぞ、マジで……っ!』


「あ……あ……あう……」














 キィィイ……


 コツ……!


 悲鳴のような音を立て、錆びついた階段室のドアが開く。正に、地獄絵図と化した屋上。それを知ってか知らずか侵入してくる者がいた。



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