第408話 エミリー vs ミロッカ

 およそ3ヶ月ぶりに愛するマギラバの意識から外界へ飛び出した変態ストーカー女ミロッカ。


 そこはアイスリンクと化した雑居ビルの屋上。ひとまず、踏み潰されて殺されそうだったエルフリーナを直感で救出。


 睨み合う2人。


 ネル・フィードとアイリッサを視界に捉えたミロッカはすぐさま状況を把握。最善のシナリオを瞬時に作り上げ、動く。


 ボウッ!!


『ヒート・ダークマター……ッ!』


「ヒ、ヒートですって?」



 ブアオオオオッッ!!!!


 ギュアアッッ!!


 シュウウウウウッ!!



 熱を帯びたダークマターがミロッカの全身を包みこむ!


「ダークマターが熱を発するなんて、聞いたことがないわ!」


『はあっ? だからミューバは低脳だと言われ続けているのよ』


 驚くエミリーに呆れ、嘲笑うミロッカ。


「ミューバ、低脳って、まさか!?」


『銀河エネルギーも使えない、快楽を付属しなければ子孫繁栄もままならない。神に依存しなければ己の存在価値すら見出せない。まったくバカとしか言いようがない』


 それを聞いたエミリーは、ひとつの可能性に辿り着いた。


「あなた、異星人? しかも、かなりのハイカテゴリー。それ以外考えられない。正解よね?」


『あんたこそキモいのよ。ただのミューバ人とは到底思えない』


「質問に答えなさい!」


 エミリーは明らかに苛立っていた。すべてがひっくり返ってしまいそうな、この最悪な出会いに。


『質問に答えればいいの?』


「そうよ。さっさと答えなさい」


 ミロッカは無言で拳を握り、全身に力を込めた!


 ブアオオオオ──────ッ!!


中性子爆発的熱波ニュートロン・スター・フレアッ!!』


「なっ! なんすん……っ!」












 ドォォォオ───────ンッ!!
























 シュウウウウウッ……!






 ドサッ!


     ドサッ!


 屋上全体を覆い尽くしていた氷が一瞬で蒸発して消え去った。それと同時に、ネル・フィードとアイリッサの氷結ひょうけつも溶け、ふたりはその場に倒れた。


『ふん。はついでだから』


 ジュウウウウッ……


 ガシャ、ガシャン!


 危険を察知したエミリーは、一瞬にして鉄壁の氷壁アイス・メタル・フォートレスを発動。それをも突き破る中性子爆発的熱波ニュートロン・スター・フレアの威力に、さすがのJudgmentの肉体も悲鳴を上げる。


「Judgmentの私にここまでのダメージを与える存在……こんなの聞いてないわ!」


 エミリーは身体のおよそ30%に重度の火傷を負った。皮膚はただれ、焦げつき、嫌な臭いが辺りに漂う。


『よきよき。一気に丸コゲにはしない。じわりじわり、ローストしてあげるから、感謝しなよね』


「こ、これは確実に、パウル様への報告案件だわ……」


 エミリーは焼けただれた手を見つめながら声を震わせた。


『パウル様? 彼氏?』


「んなわけないでしょおっ! パウル様は偉大なお方。せ、世界を、さらに宇宙の在り方すら変える……」


『はいはい。それは偉大だわ。ミューバ人ってのは、本当に訳の分からない存在に傾倒けいとうする習性があるよね』



 ブクブクブクッ───!!



 シュバァ─────ンッ!!



 エミリーの火傷は激しい泡立ちと共に瞬く間に回復。元の美しい白い肌へと再生を遂げた。


「あなたはここで殺す。死体はサンプルとして貰っていくわ」


『はあ? サンプル? 私はドモホルンリンクルかっつうの!』


 即座にエミリーが両手を胸の前でクロスする。


氷のメスの猛烈な嵐アイス・スカルペル・テンペストッ!!」


 ブワアァァアッ!!


 キィーンッ!!


『ちょっ、ええっ!?』


 ミロッカが驚くのも無理はなかった。エミリーの周りには氷のメスが1,000本! そのすべてがミロッカに刃先を向け、浮いていた!


 ズバッ!!


 エミリーが手のひらを正面に突き出す!


「喰らえ──────ッ!!」


 バヒュンッ!!


 ヒュンッ!! ヒュンッ!!


 ズババババババッ!!


『超うざっ!!』


 ザクッ!!


 ザクザクッ!!


 1,000本の氷のメスがミロッカの皮膚を、筋繊維を次から次へと抉っていく!


 シュパッ!! ザクザクッ!


『私に必殺技を使わせる隙も与えないってわけか。ならっ!』


 ガシャンッ! ガシャンッ!


 ザクッ! ガシャン!


 ミロッカは氷のメスを手足で払いのけつつ、美しい黒髪でダークマターを操作!


 ギュアアッッ!!


 ドォォォオ──────ンッ!!


「な、なんなのっ!? それは!!」


 









『ガルルルルルルッ! ハアハア!』


 エミリーの前に現れたのはダークマターの闇の巨犬。その大きさは3メートル。垂れたよだれはコンクリートの床をあっさり溶かす。


 ボタッ!


 ジュウウッ!


『ハーキュリーズ! あの女を食べてしまえ! いけー!!』


「私を食べる!? はあ!?」


『ウガガウウッ!!』


 闇の巨犬ハーキュリーズはミロッカの命令に機敏に反応。すかさずエミリーを捕食対象として認識した。


「食べられるものなら食べてみなさいよ。一瞬で冷凍犬にしてあげるわ!」


『ガアアッ─────ッ!!』


 ハーキュリーズが猛烈なスピードでエミリーに襲いかかる!!


「意外に速いわね。仕方がない!」


 エミリーはミロッカに向けて放った氷のメスのすべてをハーキュリーズに喰らわせた!


 ザクザクザクザクッ!!


 ザクザクザクザクザクザクッ!!


 そのすべてが背中に突き刺さった!


『ウガアアァ──────ッ!!』


凍死粉砕フリーズ・ブレイクッ!!」


 バキバキバキバキッ!!


 ハーキュリーズが背中から勢いよく凍りついていく!


『ウガッ……ガ……ア』


 ガッシャ──────ンッ!!


 体長3メートルの闇の巨犬、ハーキュリーズはエミリーの凍結攻撃の餌食となり、あっさり砕け散った。


「ミロッカさん。あなたのかわいいペットじゃなかったの?」


『はっ? あんなの私から攻撃を外すための駒にすぎない!』


 ギュアアッッ!!


 ミロッカは自分の傷を再生した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る