第386話 Mysterious daughter
私はトンちゃんと共に、頭を抱え項垂れるお母さんの隣に座らされた。お母さんは小刻みに震えてる。
子供の私にもなんとなくは分かる。愛する人に裏切られた時の気持ち。ギャンブル狂いの妻を持ち、疲れきっていたお父さんの悩みを、今のお母さんは優しく聞いてあげていたんだろう。
そのお母さんの存在が、お父さんの気持ちを離婚に向かわせてしまった。きっとその存在がなかったら、なんとかギャンブルをやめさせる努力をして結婚生活を続けていたんじゃないのかな。
それが本来の夫婦のあるべき姿。永遠を誓った夫婦の選択するべき道。
でも男女というのはそういう綺麗事だけでは片付けられない何かがある。それは大昔から人間に備わってしまっているバグとも呼べる感情。
神は人を完全には作れなかった。神は全知全能でもなければ偉大でもない。私に言わせればただのマッドサイエンティスト。不完全な世界に不完全な人間をのさばらせて何がしたいの?
全ての裁判で裁かれるべきは神、あんただよ。私達はこんな悪意や憎しみに満ちた世界を望んではいない。不条理と不平等と不安を抱えながら無理やり息をさせられているのに、もはやその吸ってる空気すら汚れ切っている。
ってトンちゃんが前に言ってたな。
「それ、可愛いぬいぐるみね」
「これ? トンちゃんて言うの」
「へえ、トンちゃん……」
「本当はヴィトン13世って名前なんだけど、長いから」
「そうなんだ」
暫くの沈黙。ヤヴァいお母さんは私を不思議そうな顔をして見ていた。
「ねえ、アイリッサ」
「なに?」
「私と一緒に来ない?」
「え? 行かない」
私がそう答えると、やはり不思議そうな顔をしてキャンドルの瓶を持ち、炎を揺らした。
「うーん。アイリッサはやっぱり不思議な子なんだね」
「どうして?」
「だって四つ葉のクローバー、すぐに見つけたりできるじゃない?」
「あー、うん。あれは天使さんの声が教えてくれるんだよねー」
「天使ね……」
コト
ヤヴァいお母さんがキャンドルの瓶をテーブルに置いた。そして、私に冷ややかな視線を向けた。
「このキャンドルの匂い……実は脳に影響を及ぼすのよ」
「の、脳にっ?」
私は訳が分からず震えた。ヤヴァいお母さんが今度はブラック・キューブを手に取った。
「さらにこのブラック・キューブをかき混ぜる音……それにも聴覚から脳に働きかける作用があるの」
カシャリ!
「脳って、ひょっとして洗脳?」
「違うよ。
「そ、そうなんだ、あはは……」
あぶなっ! 天使さんが守ってくれてるのかな? それにしても けーもー? なにそれ? これはもうトンちゃんに聞くしかないっ!
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