第135話 愛

 翌日、私は早速、加江昴瑠を抹殺する為に放課後、奴の後をつけた。



「あいつよ! ネル・フィード。あいつが加江昴瑠っ! 私が今、いっちばん憎むべき存在なの!」


『あのガキか……分かった』










 し〜ん……










「ちょっとっ! なによ! 早く力を使わせてよっ!」


『まあ待てっ! 言っただろうが! 力はじっくり渡すとっ!』


「えー! 早くして欲しい……」


『お前の見た目が化け物になるぞ』


「それは困る……」


『明日まで待て。そうすれば奴に痛い目を見せる事ぐらいは簡単に出来る様になる』


「明日ね。お願いよ、ネル・フィード……」


『ああ。任せておけ』



 それから丸1日かけて、ネル・フィードは一滴、一滴、お風呂に水を溜めるみたいにゆっくりと私に力を分け与えていったんだ。




「ねぇ」


『なんだ?』


「1日経ったけど、私にそんな力が本当に身についたの?」


『あははっ! 気づかんかっ! 無理もない。まだ私の力の1%もお前には移動していないからな』


「1%以下っ!? そんなんで加江の奴に何ができるっていうのよっ! 『鼻毛を抜くぐらい』なんて言うんじゃないでしょうねっ! 殺すわよっ!」


『普通に殺せるさ。人間の1人や2人……手を触れる事なくな』


「……ならいいけど」










 私は今日も『用がある』と言って藤花とは帰らなかった。加江の後をつけ、どうやって痛い目に合わせてやろうかと考えていた。


「いい事思いついちゃった!」


『なんだ? 教えろ』


「ふふふ。トラックにはねさせて、ペチャンコの蛙にしてやるっ!」


『あはははっ! なるほど。交通事故に見せかけて殺すのかっ! それは楽しみだな。がんばってやってみろ』


「わ、私の思念でトラックを操る事ができるわけよね?」


『簡単にできる』


 暫くすると、加江は信号で止まった。そして、そこにちょうどよく運送会社のトラックがやって来たのよ!


「よしッ! あれを加江に衝突させるっ! ジ・エンドよっ! 加江昴瑠っ! 私の藤花をいじめた罪っ! 死を持って償えっ!」



 私は『手の平』と『意識』をトラックに向けて、『グイッ!』と引っ張る動作をしたッ!



 ギギギィッ!


 キィィイ───────ッ!!!!


 ドォォォオ───ンッ!!



 トラックが信号待ちの加江昴瑠に向かって突っ込んだっ! 本当にできたっ! テンションMAXっ!!



「キタコレッ───!!」


『あははっ! うまいもんだ』




「おいっ! 子供が巻き込まれたぞおっ!! 助けろぉっ!!」


「救急車っ! 救急車ぁっ!!」




「ちっ! 助けようとするんじゃないっての! 人の労力を無駄にする気かよっ! まったく」


『あはは。ありゃあ助かるな』


「嘘っ! 分かるの?」


『命は助かるが……足は失うだろう』


「足を? 失う? へえ、それはそれで楽しいかもね。ざまあっ!」


『本当にお前は子供ながらに残酷な奴だ。ふははっ!』


「残酷? 違うっ! 愛よっ! 私の藤花への愛は残酷すら凌駕するのよっ!」


『そ、そうか……』


 翌日、加江昴瑠の事故の知らせを藤花は学校で知った。もっと喜んでくれると思ってたんだけど、笑顔は見れなかった。藤花は優しい子だからしょうがないか。


 これからも藤花をいじめる奴は私が許さないっ! ネル・フィードの力でやっつけてやるっ!


 前回、ひとつ前の世界で残酷神がその名前を使う程に気に入った契約者……


『アークマーダー・ネル・フィード』


 どれだけ残酷な人だったのか知らないけど、きっとその人も誰かを愛していたんだ。と私は思った。

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