第365話 私の価値
『SEX』
それが『ジジイの問い』への私の答え。笑う? 怒る? 呆れる?
私の求めるものはSEXッ! それでも悪魔の力を私にくれんの? 闇の能力者にしてくれんの? 永遠の命をくれんの? さあ、どうなの? 大魔司教のジジイッ!
暫くの沈黙があたりを包んだ。
そして、ジジイが口を開いた。
「なるほど。そなたの求めるもの、それは本物のSEXそれで間違いはないか?」
「えっ!?」
私は本物のなんて言わなかった。そ、それに本物のSEXってなによっ! わ、私はっ……!
「そなたは愛に飢えている。知りたいのだろう? 愛を感じたいのだろう? 違うか?」
な、なにを言ってんだよ、このジジイは……ざけんな。
「ぐす……ん」
「アンネマリー氏。涙が出てますよ」
メルデス神父がハンカチを取り出し、涙をそっと拭いてくれた。ありえない。この私が人前で泣くなんて。そのハンカチを受け取った私は、溢れ出る涙を止められなかった。
お父さん、お母さん、そして私。仲良く暮らしたかった。贅沢なんてしなくていいから笑って楽しく暮らしたかった。
私の足。ねえ? なんで動かなくなったの? お母さんに迷惑なんてかけたくなかったのに。お母さん、ごめんね。生まれてきてごめんね。
生まれてきたのが不倫相手の子じゃなくて、本当にお父さんとの間の子ならよかったのにね。勝手に受精してごめんね。卵子に着く前に死ねばよかった。
「んはあっ……」
あんな臭いおっさん達とSEXなんてしたくなかった。体中舐められて気持ち悪かったよ。慣れてなんてなかった。日常になんてなってなかった。ずっとずっと嫌だった。
SEXが終わった後に叔母さんがくれるお金がゴミにしか見えなかった。なんの価値もない。そう、私にもなんの価値もない。
「アンネマリーよ。そなたの望む世界を述べてみなさい」
なんなの? このジジイ。いいよ。分かったよ。教えてあげるよ。耳かっぽじってよく聞きなよッ!
「私の望む世界。それは子供を作らない世界だよ。クズ男、バカ女は1人残らず排除するっ!」
「ほう」
「そしてこの私、アンネマリーに愛を感じさせるSEXをしてくれる男を探すっ! 勘違いしないでよ。子作りなんてする気は全くないからッ! そんなもん愛じゃないから!」
「ほう」
「交尾なんて神が勝手に『種の保存』の為に施した本能という名のプログラムっ! 下等なハエやゴキブリにもある あまりにも原始的な行為っ! 人類は更にアップデートされるべきだと私は思うわけ」
「ほう」
「そもそも子供なんて愛の結晶なんかじゃない。ただの精子人間。ゴミをこれ以上増やすのはSDGsの観点からみても非常に良くない」
「ふむ」
「私よりも愛を注がれている女は許さない。私が最も尊い存在でなければ納得がいかないっ! 愛されたいよっ! 気持ちいいと思えるSEXがしたいよっ!」
だせー。愛されたいとか言っちゃった。でも止まらない。なんでっ!?
「なるほどな……」
「快楽の為だけにSEXをするのは人間の特権ッ! 私は大好きな人と愛のあるSEXをするッ! 出すだけのキモい男ッ! マウント取ってくるムカつく女ッ! 原始のプログラムに踊らされて子作りをするバカッ! そんなしゃばい奴等のいない世界を作るんだッ!」
あはは。こんなワガママなこと言ってる私に悪魔の力なんて与えちゃっていいの? さすがにくれんでしょ?
黙って私の話を聞いていたパウルのジジイの口が動いた。
「アンネマリー。そなたは種の保存の為の性行為を否定し、己の欲望を包み隠す事なく吐露した。悪魔の力を与えるに値すると、私は判断した」
「は? こんなんで? いいわけ?」
「人類はアップデート。私もそう思うのだよ」
「そ、そう、なんだ」
「アンネマリーよッ!!」
「は、はい!」
「愚かな人間を、滅せよっ!」
「わ、分かり、ました」
こうして私は、悪魔の力を得て、闇の能力者になる事により、自分に本当の価値を見出す事となった。
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