第463話 神父プレイ
「さっ、メルデス君、中へ」
神父に促され中に入ると、やたら広いエントランスが目の前に広がった。花瓶や絵画などはひとつもなく、時が止まったかと錯覚するほど殺風景だった。その広さと無機質さは、まるで現実から切り離されたような感覚を引き起こした。
「おじゃまします」
「メルデス君、今日は仕方ありませんが、これからは『ただいま』でお願いしますよ。では君の部屋に案内します」
「僕の部屋?」
「もちろんです。プライベートな空間は非常に大事なものですから」
僕はなんの飾りっけもない廊下を神父について歩いて行く。本当になにも置いていない。自分の内面を見せないことを徹底している人間の家だと思った。こいつ、そんなに変態なのか?
「ここが今日からメルデス君のお部屋ですよ。自由に使って下さい」
「ありがとうございます」
ある程度の広さはあるものの、部屋の中もがらんとしていた。ベッドと机があるだけ。
「この部屋はメルデス君の好きな色に染めていって下さい。なので余計なものは置いてありません」
「僕の色?」
「必要なものがあれば、いつでも言って下さい。すぐに用意しますので」
僕はもうさすがに聞かずはいられなかった。はっきり言ってこんな生意気なクソガキに、なぜここまでよくしてくれるのか。
「神父」
「はい?」
「神父は僕に言いました。変態同士仲良くしようと」
「ええ、言いましたね」
「僕がこの人形をいつも抱いているのを見て、そう思ったということですか?」
もしそうなら誤解は解かなくてはいけない。僕は神聖なマドレーヌの顔を神父に向けた。
「ふっ」
「?」
「あははははははっ!!」
「な、なにがおかしいんですか?」
「そんなわけないじゃーん!」
「んえっ?」
神父の聖職者たる雰囲気は、コーヒーに溶ける砂糖みたいにさっと消えさった。目つきと口調が誰にでも分かるレベルでヤヴァさを醸し始めた。
「俺がメルデスちゃんを気に入ったのはさ、内なる狂気ってやつを腹の中に隠し持ってるってとこがポイントだったわけよ」
「うちなる、狂気?」
「そそ。ちなみにそのマドレーヌはそういうものじゃあない。いうなればその子は君にとって体の一部のようなものだ。違うか?」
「違いません! その通りです!」
マドレーヌの存在価値を言い当てられ、僕はある種の感動に包まれた。
「だから俺は、そんな表面だけを見て君を変態と言ったんじゃあないんだぜ。心の友として長く付き合っていきたいと本気で思ったんだ」
「僕みたいな、こどもと?」
「それがいいんじゃあないか。君には俺が、変態の英才教育をしてやろうと思ったんだわ」
「変態の英才教育ぅ?」
「君はまだどこかで変態の自分に引け目があるだろ。変態はなにも悪いことじゃあない。むしろ
「ルール?」
「それは日常を誰よりも真面目に過ごし、変態のカケラも見せてはいけないということ。外では身も心も聖人君子であれ、ということさ」
「まさか、あなたは変態をより楽しむためだけに神父の道を……?」
「そのとおり。神父プレイを満喫しているのさ。とくに若くて可愛い女の子に『神父様』なんて呼ばれると、それだけで興奮して射精しそうになるぜ」
「しゃ、しゃせい?」」
「じゃあ、俺の部屋にも行こうか。見せたいものがたっくさんあるんだ」
僕は今まで生きてきて、なにか物足りなさを感じていた。ダミアン・グリムウッド。きっとこの人は、僕に何かをもたらしてくれる。それだけは確実だと思った。
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