第464話 変態の生きる道

 いま僕は、新たな世界への扉を開けようとしている。とはいえ、その先にあるのは希望に満ちあふれた明るい未来なんかじゃない。いやらしい甘い香りを放つ腐りかけの果実。それに近いものが待つ世界。そんな気がした。


「ここが俺の部屋だぜ。入ってちょ」


「はい」


 広めの部屋に入ると、妖艶な香水の香りが鼻を抜け脳を刺激した。大きな棚には成人向けのDVDや雑誌がびっしりと隙間なくコレクションされ、壁にはあらゆる職種の女ものの制服が美しくディスプレイされていた。


「この部屋、いい匂いだろ?」


「なんて香水なんですか?」


「これはピンク・アフェアという香水でねぇ、俺が12歳の時に初エッチした女がつけていたんだ。28歳の担任の教師だった。その時のエッチが最高すぎて忘れられないのさ」


「そうなんですね……」


 神父の股間が少し膨らんでいるようにみえた。12歳で担任の女教師と初セックスとか、ぶっ飛んでるな。つか、教師のほうがヤヴァくないか?


「そして、今日ゲットしたこれも、俺の趣味なのさ!」


 ガサリ


 さっきの美容院の紙袋。その中からいやらしい笑顔の神父が丁寧に取り出したのは、綺麗に束ねられた美しい髪だった。


「髪の毛が趣味なんですか?」


「あの美容院は俺の親友が経営していてね、近所のハイスクールに通うJKが頻繁に訪れる。特にかわいい子の髪は高値で購入させてもらっているんだわ。長さがあるほど用途も幅広いから価値も高い」


「用途?」


「まだ少しメルデスちゃんには早かったか。じきに分かるようになるさ」


「そうなんですね」


 そのあとも神父は、引っぱり出してきたストッキングの匂いを嗅ぎながら、素足よりもストッキングを履いたムレた足の方が何倍もエロいだとか、美人の鼻くそは美味だとか、ドM女の魅力だとか、実に興味深い話をしてくれた。


「児童ポルノを安心安全に入手できるルートもちゃんと確保してるんだわ」


「すごいですね」


 そんな話を聞きながらも、僕は部屋に入った直後からずっと気になっていた。それはソファーに腰かけている精巧な等身大の人形。軍服のような服を着て、赤いマフラーをしている。マドレーヌとは大きさ、材質ともに別物。神父はソファーに静かに座り、その人形の肩に手を回した。


「この子が気になる?」


「すごい綺麗だなって。強さと儚さが同居してるような表情がとくに」


「メルデスちゃん、最高さいくうーっ!」


 神父はウインクして親指を立てた。


「ど、ども」


 その人形の名前はミカサと言って、神父の恋人らしい。僕の目の前でも平然と濃厚なキスをし始めた。


 ブチュウ! チュ!


 レロレロレロレロレロレロッ!


「ぷはあ♡ メルデスちゃん」


「は、はい!」


「君は女の糞とかしょんべんに、興味があったりするか?」


「えっ!? そんなのないに、決まって、決まって……」


 僕はそこで固まった。ビスキュートのおしっこを飲んでからというもの、女の人のおしっこを飲みたいという欲求は常にある。それを自分のおしっこを飲むことで紛らわせている日々。


 その異常行為は性欲を満たすのと同時に、僕のもろくなった心を支えてくれている。もう欠かすことのできないルーティーンと言ってもいい。


「スカトロジーが好きなのか? 意外だったな。俺も大好きなんだ。なにも気にすることはない。大丈夫だ。俺がついてる。君はもうひとりじゃないんだ」


「ぼ、僕はあなたの言う通り変態なんです。僕はもう普通に生きていける気がしません。人間も怖くて仕方がないんです。助けて下さい……!」


 この人の前だと素直になれる自分がいた。涙が止まらない。僕の心の暗闇を照らして下さい。なんだかんだ言っても、この人は立派な神父なんだ。海のように広く、深い心の持ち主。


「そうか。じゃあ、ひとまずこのDVD見とけ。綺麗なお姉様方のおしっこ見放題だぞ! あははははははっ!」


 僕は秒で前言を撤回することにした。

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