第250話 ぷひひのアイリッサ

 ネル・フィードは、今起きようとしている『闇』を理解してもらう為、工場長バルドリックに自分の力を示した。そして、今週中の休みを無事に取得することができたのだった。


(これで気兼ねなく闇の能力者探しに時間を費やせるが、情報量はかなり少ない。ジャポンの留学生、ディーツだけでも何人いるんだ?)


 焦る気持ちを抑えながら工場の扉を開け、外に出た。ひとまず昼食をとるために行きつけの喫茶店に向かうことにした。


「ネッルさぁーんっ! 待って〜!」


 暫く歩いていると、後ろから自分を呼ぶ声がした。アイリッサだ。


「どうしたんですか? 慌てて」


「ネルさんがめずらしく工場長と話してるのを見かけたんで、なに話してたんですか〜? って聞いたら『ネルは今週休みだ』って言うもんだから、ネルさん悪魔人間を探しに行くんだと思って!」


「正解です。時間がありませんからね。労働は暫くおあずけです」


「ネルさんってほんとに働くの好きですよねぇ。私なんて毎日休みたいって思ってますけど」


「で? どうしました?」


「で? どうしました? じゃありませんよっ! 私も悪魔人間を探すの手伝いますよっ! 頼りになりまっせー! うっふーん♡」


 アイリッサはセクシーポーズでウインクした。



「いえ、ひとりで大丈夫です」


「私にはですねぇ〜」


「ひとりで大丈夫だから」


「私〜」


「お疲れ様でした〜!」


「待て待て待て待てぇいっ!!」



 ガシッ! ガシッ!



 アイリッサはひとりで行こうとするネル・フィードの両肩をがっちり掴んで離さない。


「アイリッサさん、もうあなたを危険な目に合わせたくない。分かって下さい」


 ネル・フィードは振り返り、アイリッサの目を見て言った。


「んもうっ! 人の話をちゃんと聞いて下さい! 私、昨日大学に行っている弟にジャポンの留学生について聞いてみたんですよ!」


「え? 弟さんがいらっしゃるんですか?」


「そうですよ。とってもできた弟なんです。で、いるらしいんですよ。弟の通ってる大学に。ジャポンの留学生が!」


「本当ですか?」


「はい。3人いるんですって。その中にいるかも知れませんよ。悪魔人間」


「3人ですか。正直なところ、ディーツ全体では相当な数のジャポンの留学生がいるばすです。その3人の中にいる可能性はかなり低そうですけどね」


「ぷひひ! そこらへんの話、お昼食べながらしません?」


「そこらへんの話?」


「さっ! いきましょ! どーせいつもの喫茶店でしょ?」


「おっととっ! そうですけど」


 アイリッサはネル・フィードの腕を引っ張って、喫茶『Himmelヒンメル』へと向かうのだった。

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