第251話 とほほのハイドライド
アイリッサに捕獲されたネル・フィード。なかば強引に行きつけの喫茶店へ一緒に行くことになった。
「アイリッサさん。ごめん。先に行っててくれるかな?」
「ぶうっ! 逃げる気でしょ?」
「いやいや、ちょっと……」
ネル・フィードはそう言ってアイリッサの腕をほどくと、スタスタと細い路地へと入っていった。
「ちょ、ネルさん?」
不思議に思いながら、アイリッサもそろそろと後について行った。
バキィィッ!! ドスゥゥッ!!
「おらあっ! なめてんのかっ! てめぇっ!」
「ゆ、許してくれ、今月は、それが限界なんだよ。がはっ!」
ふたりは路地裏で、大の大人の喧嘩に出くわした。しかも、やられているのはハイドライド。ネル・フィードはゆっくりとふたりに近づいていく。
「ばかやろう。昨日お前の頼みでネル・フィードとかいう奴に痛い目みせる為に武闘派3人を向かわせたら、俺のかわいい弟がズタボロで病院送りじゃねぇか! おい!」
「ま、さか、あいつがあんなに強えとは思わな……」
「黙れ。許せねぇ。お前らのチームがこの辺ででかいツラできるのは俺たちがバックについてるからだ。だな?」
「ああ。分かってる……」
「だったら普段の用心棒代にきっちりと、俺のかわいい弟の治療費を上乗せしてくれねぇと、困るわな?」
「だから、今月はそれで……」
「ハイドライドちゃん。俺は態度のなってねぇ病院の受付と、理解力のねぇバカが死ぬほど嫌いなんだわ」
ドガッンッ!
「あぐぅ……!」
ドサッ!
「社長の息子ならもっと金持って来い。じゃなけりゃ契約終了だ。俺たちは別のチームからも誘いがあるんだ。やっぱり薬さばいてる奴らは羽振りがいいからな。そっちにいくわ」
「ま、待て、待ってくれよ……!」
「あ? そうだ! 約束通りそのネル・フィードってのはぶっ殺してきたんだろうな?」
「そ、それが、まだ……」
「ああんっ!? 殺せねぇわ、治療費は持って来ねぇわ、てめぇは人としてありえねぇなぁっ!」
ドガッ! ズドォッ!
バキッ! バキッ! バキッ!
その男は倒れているハイドライドを蹴りまくっていた。
「昨日のネルさんがやっつけた大男、ハイドラ君の差し金だったんだ。むむむ」
「の、ようですね。とはいえ、これは放ってはおけない。私も昨日はやり過ぎてしまいましたから」
(早くマレッドさんの家に行きたくて力の加減が甘かったからなあ)
「とりあえず助けましょ! 出番ですよー! アークマーダー♡」
「はい。いってきます」
(そっちで呼ばれたの初めてだな)
ドスッ!
「このボンボンがっ!!」
ザッ……!
「その辺にしといたらどうですか?」
「だ、誰だッ!?」
振り向いたその男。昨日の大男の兄ということで、かなりガタイがいい。190センチの筋肉ムキムキ。
「あなたの弟さんをやったの私です」
「じゃ、じゃあっ、てめぇがネル・フィードかっ!?」
「そうです。殴りたければ私を殴ればいい。よけも防ぎもしませんよ」
「なにぃ!?」
「それで勘弁してやって下さい。彼、ちゃんと私を殺そうともしたんです。今朝、私の頭に大きな花瓶が直撃しましてね。彼なりにがんばったんです。ただ、私には効果がなかった、というだけで」
「はっ、はははッ!! そうかい。じゃあ、ここで俺がてめぇを殺すッ! で、ハイドライドに自首してもらうとするかな」
「おっ! ナイスアイデアですね!」
ネル・フィードはにっこり微笑んだ。
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