第70話 再び

 今回のゼロワールドの動画は、ブラック・ナイチンゲールへの挑発。場所まで指定して対決を挑んできたのだ。


 しかも、今までにはない、2体同時に腐神の相手をしなくてはならないという状況。3日前のヘドロとの戦いの無様ぶざまさを思い返せば、こみ上げてくるものはただ1つ。


『死の可能性』


 イバラは考えていた。あの白雪とヘドロが同時に自分達に襲いかかってきていたらどうなっていただろうか?と。


 ヘドロの底無し沼に動きを封じられ、そこに自分の冷気を上回る白雪の凍結術を放たれたら……終わりだ。あっさりと脳内の自分達は死んでいた。


「はぁ、はぁ……」


 イバラは考え過ぎて具合が悪くなり始めた。その隣で、藤花が力強く宣言した。


「明日は必ず私がやっつけるよ!!」


「と、藤花?」


「藤花さん、激しくない?」


「うふふ♡ 藤花っち、心強いわあ」


「飛翔で浮いていれば、ヘドロの底無し沼にハマる事もなかったんだもん。明日はずっと浮いてようかなー」


「ほっほっ! そうじゃのう! ワシもそうするか!」


「イバラちゃんの、二刀流ブリザードも頼りにしてるからねっ!」


「う、うん、任せてっ!」

(藤花、全然ビビってない。見習わなきゃ……)


「B県K市、新幹線で3時間程ですね。みなさん、連携攻撃などの確認があれば早めにして頂いて、今夜は明日に備えて早めに寝てください」


「分かりましたっ!」


「分かったわぁ♡」


「ふむ」


「了解」


「激しく寝るっ」


 夕食後、連携攻撃を皆で考え、A〜Fの6つのパターンが出来上がった。


「負ける気がしないね!」


「準備万端だわ♡」


「明日、カエル野郎来ればいいのに……」


「藤花さん、激しく顔が怖いよ」


「クロちゃん、気合い十分じゃな。よいよいっ、ただ空回りはせんことよ」


「分かってます。ですね。でもウズウズする……」

(早く戦いたくて仕方がない。カエル野郎が来たら、冷静ではいられない……)



『早く戦いたくて仕方がない』



 そんな事を思う自分の変化に、藤花は当然気づいていた。とはいえ、戦いを前にした気持ちの高ぶりぐらいにしか思っていなかった。

 

 性格の変化の本当の原因。


 それがなんなのか?


 分かるのは、もう少し先の事。



 日付が変わる前に、ブラック・ナイチンゲールの5人は眠りについた。
















 午前3時過ぎ。

 

























 アンティキティラはふらふらと、人気ひとけのない夜道を歩いていた。目は半開きで完全に自分の意思で行動している感じではない。



 ざっ、ざっ、ざっ……



 足をひきづるように歩く。風原家から200メートル程離れた場所にある公園に風原正男は入っていく。


 その広場の中央にたどり着くと動きは止まった。目を閉じた状態でフラフラしながらたたずんでいる。


 するとッ!



 シュゴワァァァァ!!










 強い光と共に上空に現れた円盤型の飛行物体! そこから発せられた光線に吸い込まれていく風原正男っ!



 『エイリアン・アブダクション』



 再び、風原正男はその身を地球外へと連れ去られてしまったのだった。

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