第71話 赤い歯車のタトゥー

 チュン、チュンチュン


 チュンチュンチュン!


 翌朝。ゼロワールドの脅威がなければ、普通に旅行に出掛けたいと思えるほどのいい天気。


 そんな、爽やかなひと時を感じる間もなく、美咲の動揺し、震える声が、風原家を駆け抜ける。



「みんな起きてー! お父さんがどこにもいないよおー!」


 皆一斉に目を覚ます。


「アンティーがいないのぉ?」


「正男さんが? タバコでも買いに行ったんじゃなくて?」


「私ちょっと、外見てきますっ!」


 ガッ、ガラガラッ! ガラッ!


 藤花のその声に反応するように、風原家名物、開けるのにコツのいる玄関が開く音がした。


「お父さんっ!?」


 美咲は玄関へ走る。他の4人も気になり玄関へ向かう。すると、少しボーっとした顔でアンティキティラが玄関に立っていた。


「お父さん! どこに行ってたの? 激しく心配したよ!」


「多分だと思うんだが、昨晩、私はアブダクトされていたようだ……」


「えー? またエイリアン・アブなんとかってやつ?」


「イバラちゃん、アブダクションね。風原さん、多分じゃなくて確実にそうだと思います。その右腕……」


「ああっー! 復活してるう♡」



 『復活』



 真珠の言う通り、復活していたのである。風原正男の右腕に『歯車のタトゥー』が。


「でも、なんか前のと違くなーい?」


「確かに。前のは濃い緑色。今回のは赤。なんか危険な感じがするんですけど。大丈夫なの?」


 心配気味のイバラの横で、藤花は赤い歯車のタトゥーに興味津々。


「風原さん。アンティキティラ人は赤い歯車のタトゥーについて、なにも教えてくれなかったんですか?」


 正男はおでこにこぶしを当てて、記憶を呼び戻そうとがんばったが……ダメだった。


「て、手を握ってみれば、分かるよね? あは、あはは……」


 イバラはビビりながら正男の手を見つめる。


「では天使あまつかさん。右手を……」


 そう差し出された正男の手をじーっと見つめるイバラ。そして、右手をゆっくりと引っ込める。


「天使さん?」


「赤は危険な感じしない? 信号も赤は止まれだし。ね?」


「ですよね。私もそう思います。今回の歯車は慎重にした方が……」


 その時ッ!


 ギュ!


「く、黒宮さんっ!?」


「わわわわわっ!」


 藤花の突然の行動に、その場の全員がびっくり!


「やっぱりなにも起きませんね。更にパワーアップできるのかと思ったんですけど……」


「藤花! どんだけ怖いもの知らずよーっ!」


「藤花っち、大胆っ♡」


 赤い歯車のタトゥーは回らなかった。果たして新たに風原正男に与えられた力とは、一体なんなのだろうか?

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