第72話 アフロタワー

 正男の『赤い歯車のタトゥー』の持つ力は謎のまま、ブラック・ナイチンゲールは出発の時刻を迎えた。


「では、行きましょう」


「正男さんも今回は一緒に行動するんだね」


「ええ。でもアフロタワーまでは行きませんよ。邪魔になるでしょうから」


「命の危険があるからのう。正男は駅で待機しとればよかろう。あと、その赤い歯車のタトゥーがワシらにとって助けになるかもしれんからな」


「ホントになんなんだろうねぇ? 回る事なんてあるのかなぁ♡」


 藤花と陣平は飛翔で、イバラ、正男、美咲、真珠は軽トラで駅へ向かう事にした。ここV県のW市は新幹線が停まる。一気にB県K市を目指す。



 やはり人通り、車通りはほぼない。新幹線の本数もだいぶ減らされていた。11時39分。K駅着の新幹線に乗車。到着までのおよそ3時間。各々コンセントレーションを高めていた。


 音楽を聴く者、外の風景を眺める者、瞑想する者、タバコを吸う者。


「あはは。に、西岡さーん、新幹線は禁煙ですよー」


「大丈夫よ♡ 藤花っちも吸う?」


「吸いませんっ! 私まだ17歳ですからっ! 20歳になっても吸いません!」


「あははっ! 藤花っち真面目ー♡」


 おちゃらけていた真珠だったが心中は穏やかではない。腐神に愛する夫を殺され、ゼロワールドを壊滅したところで元の生活は戻ってこない。おまけに数ヶ月後には自分も死んでしまう。


 1人きりになってしまう息子を思うと、胸が張り裂けそうだった。そんな息子にせめて、この世界だけは残してあげたい。そうタバコの煙を吸いながら思っていた。













 キュウゥゥゥウウウッンッッッ!




 新幹線がスピードを落とし始めた。3時間が経過し、ついにB県のK市に到着したのである。


「さっ、皆さん降りますよ。忘れ物ないように」


「お父さん、引率の先生みたい」


「本当だねっ、でも待ってるのは楽しい時間じゃなくて腐神だもんね。ガッカリ」


「サクッと片付けてうまいもんでも食いたいわいっ! と思ったが、どの店もやっておらんか……」


「ゼロワールドが指名したB県K市ですから、たぶんどこも……」

(K市の名物オニオコゼ丼。食べてみたかったなぁ。って最近の私は食べる事ばかり考えてる。永遠の方舟の教えが嘘みたいに薄れてる……)



 プシュー! ガラッ!



 皆、荷物を持ちK駅に降り立った。嘘みたいに爽やかな風が、ブラック・ナイチンゲールを出迎える。


 B県、K市。


 ここに腐神が現れる。しかも2体。駅のホームからは天高く聳えるアフロタワーが見えた。歩いて5分で着く所にそのタワーはある。


「では、行きましょう」


 アフロタワーに行った事のある藤花が先導する。正男は、駅の休憩スペースで皆の荷物を預かり、待機。


「油断せずに、気をつけて。帰りを待っていますっ!」



 ブラック・ナイチンゲールの5人は、駅の構内を出て、さらにタワーの入り口を目指して歩く。


「確かにアフロの人みたいだね!」


「こんな建物をよく建てたのぉ」


 アフロタワーの30階までは様々なオフィスや飲食店が入っており、31階から45階まではホテルとなっていた。K市が誇る、全国でも割と有名なタワーなのである。


 5人は、アフロタワー入り口に続く、広く大きな階段に差し掛かった。


『マティアスの丘』


 そう呼ばれる大階段を登り切ると、さらに、タワー入り口へと続く広場に出た。滑り台やブランコがあり、休日になればここは親子連れの憩いの場となる。


「腐神。どこにいるの? 見当たらないね……」


 イバラがそう言ってあたりを見回した、その時ッ! 上空から大きな影が降りてきたっ!



 ゴオオオオオオッ!!


 ズッドォンッッ!!!





『フシュウウウッッ!!』





「来たっ!! 来おったぞぉっ!!」


「おっきいっ! あれが?」


「さ、さい?」


 5人の前に、身長3メートルの大男、いやっ! サイおとこが現れたっ!


 頭はサイ、体はゴリゴリの岩のようなマッチョ、えんじの布を右肩から斜めに掛け、下半身も同様の布でできた半ズボンを身につけている。


 手首にはトゲの付いた鉄製の腕輪をはめ、その手には凶器『くさり鉄球てっきゅう』が握られていたッ!



 ジャラ、ジャラ!



『来たな。お前らがブラック・ナイチンゲールだな? フシュウウウッッ!』


 白雪やヘドロには無かった狂気と粗暴さが、その腐神からは漂っている。


『俺は腐神『強暴きょうぼう』と契約を交わした『ライノマン』だっ! お前たちにはこの場で全滅してもらうっ! いくぞぉぉぉおっ!!」


 腐神ライノマンの、先制攻撃が炸裂するッ!

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