第46話 メデューサ

「藤花っちと陣ちゃんには、今日初めて会ったから、ちゃんと自己紹介するね♡」


「ありがたやーじゃ」


「はい! お願いします」


 真珠は、目を瞑り、軽く息を吐いた。


「西岡真珠 35歳。パート先のスーパーの仕事中、突然、美咲っちに声をかけられたの。それが1ヶ月前ね」


「そうだったんですね」


「いきなり『病院で診てもらった方がいい』って言われてね。いたずらか罰ゲームなのかと思ったわ」


 美咲がそっと真珠に寄り添う。真珠は、そんな美咲の手を握る。


「あの時、西岡さんに激しく、余命の短さを感じて、この人に絶対に力を与えたいって思ったんだよ」


「半信半疑で病院に行ったら、悪性リンパ腫で余命4ヶ月って言われて、びっくりこきまろよっ!」


「4ヶ月、ですか」

(私とほぼ同じ。旦那さんもお子さんもいて。ショックは計り知れないよね)


「で、約束通り、受診後、美咲っちに電話して、アンティーに悪性リンパ腫、消してもらって、力も頂いたわけ」


 話を聞きながら、藤花はある事に気づく。真珠の髪の色。全くもって普通。控えめのブラウンだった。


「あの、西岡さんの髪色、私たちと比べると、なんか普通というか……」


「あー、これ? ウィッグっ!」


「ウィッグなんですかっ?」


「そそ、見ててよー!」


 真珠は、鬱陶しそうにウィッグを外した。

 

 ふわさっ!


「はい! ジャーン! まっピンク♡私は別にいいんだけど、仕事中はさすがにウィッグしないと、クビになっちゃうわけなのよ」


 西岡真珠の、可愛いピンクの髪が、エレガントな香りと共に露わになった。


「私達の中でダントツに目立ちますね。西岡さんのそのピンクの『髪色の能力』ってなんなんですか?」


「うふっ♡ 藤花っちの真紅の髪もすごいわよ」


「あはは、でした」


「じゃあ、さっそく私の髪色の能力、教えちゃうわね♡」



 そう言うと、西岡真珠は手を振りながら、部屋を出て行った。


「??」


「西岡さん、どこ行ったんじゃ?」


「すぐに分かるよ。2人とも」


 イバラが、そう言った瞬間。









『ねえねえ! 聞こえるぅ? 藤花っち、陣平ちゃーん♡』












「うわっ! びっくりしたぁっ!」


「こ、これは? 脳に直接話しかけられているような……そうかっ! これは『テレパシー』じゃな?」






『ピンポーン♡ 正解でーす!』








「西岡さんの髪色の能力ってテレパシーっ? すごっ!」





『届く範囲は30メートルってとこかな。1人に対しても、その場の仲間全員にいっぺんに話しかける事もできるよぉ♡』



「私たちも『心の声』で西岡さんと会話ができるわけですね?」


『そうよっ。だから敵に聞かれる事なく、戦闘中も作戦をたてる事ができるってわけよね♡』


「確かに、すごく有用ですっ!」


 藤花が感心している横で、陣平は目を瞑り、心の声で真珠に話しかけた。


『西岡さん、西岡さん、聞こえますか? どーぞ』


『聞こえるよぉ〜♡』


『今日のパンティー、何色じゃ?』


『えっとねぇ、水色よっ♡』


「ぶはあっ! たまらんっ♡」


『じゃあ、一旦テレパシー切るね』


「陣さん、テレパシーでくだらない事を聞かないの! ちなみにさっきは全員と繋がってたんだから!」


「そ、そうでしたかっ、わはは」


「エロジジイ……!」

(私というものがありながら熟女に走るなんて! 激しく許せないっ!)


 和室に真珠が戻ってきた。


「では、次、私の『みことの炎』いくねぇ♡」





 ボボォンッ!


 ボウウッッ!







「わぁっ! 西岡さんの命の炎、黒いんですねっ?」


「そう、私のこの暗黒の命の炎。『特性』は……」







 ホボウッッ!


 ボンッッ! ボボォンッ!


『シャアアッッ!!』


『シャアアッッ!』


『シャアアッ!』










「へ、蛇だあぁッ!!」


 蛇が大の苦手の藤花は、びっくりして真珠から一目散に離れた。


「えへっ♡ ごめんね! 怖かったあ?」


 西岡真珠の右手に宿った黒いみことの炎。そこから出てきた5匹の『炎蛇』は、口を開けて大きくうねっていた。


「その蛇の特性は、な、な、なんなんですかぁっ?!」


「このメデューサは、どこまでも敵を追いかける。追尾ついび攻撃が特徴よ♡」


「そ、それはすごいですっ!」

(5匹の黒い炎蛇 メデューサ。西岡さんのイメージとは真逆でびっくりしたけど、とても心強いっ!)


 藤花はビビりながらも、強く拳を握っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る