第324話 インストール

 ネル・フィードはスマホを手にハイドライドと隣同士でソファーに座った。


「じゃあ、まずは『満場エッチ』で検索しましょうか!」


「は、はいっ!」


 ネル・フィードの指先が震える。


「兄貴、リラックスっす!」

(あ、兄貴……童貞? んなアホな!)





 『満場エッチ』




 知る人ぞ知る、やりもく必須の出会い系アプリ。とはいえ、エルフリーナ以外でも満場エッチ絡みの犯罪は時折起きており、最近ではアプリ存続が危ぶまれる声も聞こえてきていた。


「兄貴ッ! オーケーっす。じゃあ、インストールしましょう」


「イ、インストール……します!」


 ネル・フィードは恐る恐る満場エッチをインストールした。


「満場エッチは完全無料っすから安心して下さい。課金もなしでやりもくの女の子に会えるんすよ! なかなかそんなのないんで最高なんすよ!」


「く、詳しいんですね……」


「え? あー、過去に1回だけ利用した事が。あはは」


「本当に1回だけなんですか?」


「すんません。10回ぐらいっすって! 俺の事はどうでもいいんすよ! さあ、兄貴のプロフィール作成しますよ! 写真も撮らなきゃ!」


「め、面倒くさいな……」


「兄貴、エルフリーナはかなり男を選ぶらしいんすよ。なので誰でも会えるってわけじゃないんす」


「じゃあ、じょえさんの仲間の3人、えーっと、タッカー、イーボー、カンジ? でしたっけ? かなりのイケメンという事ですか?」


「残念ながらその3人はイケメンではないっす」


「じゃあ、そのヴァルギナという人物が、男をエルフリーナと引き合わせる判断基準とはなんなのでしょうか?」


「そうっすね、巷で言われているのは『超イケメン』『超ミステリアス』『超バカ』このへんの男がエルフリーナに会えるらしいんすよ」


「イケメンかミステリアスかバカ?」


「はっきり言って兄貴はッ! 超ミステリアスだと俺は思うんすっ!」


 ハイドライドは乙女の様な表情でネル・フィードを見つめて言った。


「じゃ、じゃあ、じょえさんのお仲間の3人は……」


「はっきり言って超バカっすね! 死んじまった奴らにそんなん言うのは申し訳ねぇっすけど」


「エルフリーナ! 許せん。死んだ3人の為にもっ!」


 ネル・フィードのスマホを持つ手が怒りで震えるっ!


「じゃあ兄貴! プロフィールの書き方いきますよ!」


「あっ! は、は、はいっ! えー、こ、これはどうすれば……」


 ネル・フィードのスマホを持つ手がまた別の意味で震え出した。

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