第189話 だおっ!

『んもうっ!! もうっ!! もうっ!! んもうっ!!』


 ドスグロはそう言って、頬を膨らませてからナナに怒りをぶつけた。


『ミューバに降りるにはちゃんとした理由と許可がいるんだおっ!』


『は? 私はちゃんとした理由と許可を得てここへ来たのだッ!』


『ナナは上層部を騙して来ただけでしょ! さっさとハイメイザーのデータ取って帰るよっ!』


『知らんし』


『はあ。ナナと一緒にミューバの研究をしてた時から怪しいと思ってたんだ。やれ牛丼がどうとか、寿司がどうとか。よだれ垂らしながら話してたもんね。品のないっ!』


『黙れ。ハイメイザーは私が倒してやる。お前らは勝手にカテゴリー1になって精神世界で暮らせばいいのだ』


『ぼ、僕だって……』


『ん?』


『僕だってっ! ミューバに降りたいのずっと我慢してたんだおっ!! あのミューバ人の『彼』と一緒に過ごしたかったんだっ!』


『好きにすればいいだろう?』


『そんな理由 上に言えるわけないしっ! そしたらさぁ、ナナはさぁ、うまい事やってさあ! あっさり地上に降り立ってさぁ! ナナばっかずるいんだもんっ! 卑怯者っ! あばずれっ! もう知らないっ! ふんっ!』


「西岡さん、彼ひょっとして」


「たぶん、そうね」


 藤花と真珠は今までの人生で直接見た事がなかった。『おねぇ』という存在を。というわけで、初『生おねぇ』が異星人となった。


『お前もアンティキティラなど捨てればいいのだッ!』


『ぼ、僕にはそんな事はできないよ。道徳的に……』


『バカかッ! 道徳的過ぎる人生などつまらないのだッ! 愚の骨頂なのだッ!』


『んもうっ! みんながみんなナナの様にはできないのっ! 掟やルールや習わし、みんなそれにのっとって生きてるんだおッ!』


うるさいのだ。私の辞書にそれらはもうない。あるのはフリーダムのみだ!』


『フリーダムねぇ。ただの食いしん坊のくせに……!』


『フリーダムをバカにするなッ! 死体も残らんようにXで蒸発させるぞッ!』


『あーやだやだ。野蛮な女』


 悪態をつくナナを無視して、ドスグロというアンティキティラの研究者は藤花と真珠の手を握って言った。


『ありがとね、2人とも。僕の作った最新のガリメタの効果はどうだったかなあ?』


「ガリメタ……」

(歯車のタトゥーのことよね)


「ドスグロさん。私、その前に聞きたい事があるわ」


『なんですか? えっと、あなたのお名前は?』


「に、西岡っ! 西岡よッ!」

(この男にはシンジュとはいいにくいわ……!)


『ニシオカさんね。で、なあに?』


「あなたの作ったガリメタね、私達にアンティキティラの力を授ける為に『あの男』に施したのよね? なんで彼だったの? 理由は?」


 風原正男は考古学者。地球の歴史や謎について、一定の知識を持っている。そんな彼を信じてドスグロは風原正男という男を選んだのだろうか?








『理由? ええっと彼ね、細身で色白で超タイプだったの♡』







 おねぇらしい答えが返ってきてしまった。


「じゃ、じゃあ、質問を変えるわ。アンティキティラの力。余命が短い人間ほど強力な力を得る事ができるのは、なぜなのかしら?」


『それは僕の優しさだね。そもそも、余命が1年以内の人間にしか、アンティキティラの力を持つ事はできない設定にしてあったんだ』


「設定?」


『そう。そんな力を持った人間が、いつまでもミューバにいるのは相応しくないでしょ? 腐神がいなくなるのと同時に消えるぐらいが本当はいいわけ。そう思わない?』


 それを聞いた藤花は思った。怪獣がいなければウルトラマンは必要ない。平和な世界にとって彼は、ただの怪獣と共に街を破壊した、大きい人型のヤヴァイ存在に過ぎなくなるんじゃないのか?と。


「確かに、腐神がいなくなれば、この力はこの星には不必要。大きすぎる力はもはや世界にとって脅威でしかなくなるのかも知れないですね……」

(切ないけど、みんなに怖がられながら生きていたくはないな……)


『でしょ? まぁ、だから余命が短い人程、強くなれる様にしたんだ。最後に一花咲かせてもらおうと思って』


「なるほど。だいたい予想通りだわ。アンティキティラの力をカテゴリーの低い地球に長々と存在させるつもりはないってわけね。それには余命が短い人間がうってつけ……そういう事ね」


『うん。でも今回の第3ミューバの腐神、5年前から存在は確認してたんだけど、なかなか行動し始めないし、2年前にも新たな腐神の反応を確認したけど、それも全然暴れ出さないし……ガリメタを投入するタイミングが難しかったんだおね』


「そうだったんですね」

(杏子ちゃんと加江君の事言ってる……)


『そうだッ! おいっ! ドスグロッ! お前、紫のX知ってるか?』


『紫の? そんなの聞いた事も見た事もないよ。ナナ、それはこの2人のどちらかが紫のXを使う……と受け取ればいいのかな?』


『そうだ。トウカが使うのだ』


『あら、それは是非とも見せて欲しいな。今後の研究の為にも』


「み、見せない訳にはいかない雰囲気ですね……あはは」


 藤花は再び右手に力を込め、命の炎を放出したッ!


 ボボォンッ!! ボオオオゥッ!


「えへっ♡……こんなん出ちゃいましたけど……」


『うわぁっ! ほ、本当だぁ! こっわっ! きっも! 不吉っ!!』


「あはは……き、きもいはやめてあげてください……」


 紫の命の炎の評判が、すこぶる悪くて、やはり凹む藤花だった。

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