第130話 ぶっ壊れてる
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴォォオッ!
百合島杏子は恥ずかしそうに、潰れた右目に眼帯をした。そして一呼吸して話し出した。
『まったく、赤髪が藤花だったなんて。今フロッグマンに聞いてびっくりしちゃったよ。どうしたの? めちゃくちゃイメチェンしてない? かわいいけど♡』
「あ、あ、あ、あ、あ、あ……」
「と、と、と、藤花っ! まさかだよねっ!? あの人が藤花の……」
「イバラ。間違いないよ。あれは藤花のお友達、フロッグマンに食べられて死んだって聞いてた、杏子ちゃんだろうね」
『牙皇子狂魔の正体』
それは、あの日フロッグマンに頭を食いちぎられ、死んだはずの百合島杏子だった!
「そ、そんな、杏子ちゃんは死んだ……生きてるはずが……し、しかも、なんで牙皇子?」
藤花の頭の中はぐっちゃぐちゃに混乱していた。それもそのはず、死んでるはずの杏子が生きている。しかも、さっきまで殺そうとしていた人物がその杏子なのだ。
愛する杏子がこの世界を滅亡させようとしている倒すべき存在で、ゼロワールドの教祖。そもそも男だと思いこんでいた。
そのすべてがごちゃ混ぜになり、なにをどうしたらよいのかが全く分からなくなってしまったのだ。
シュウウウウウッ!
ガクン……
藤花の命の炎が消えた。そして、膝から崩れ落ちた。
「な、なんなのこれ? 嘘だと言って。手の込んだドッキリ? モ、モニタリング? そ、そんなわけないし……じゃあ、なに?」
震える藤花を見て、百合島杏子はうっとりした表情を浮かべる。
『今のこの世界。素晴らしいと思わない? ねえ? 藤花、笑った顔を見せてよっ!』
百合島杏子は藤花に駆け寄り、手を握った。
『冷たいじゃない。大丈夫?』
藤花は、優しく自分の手を握る変わり果てた杏子を睨みつけた。
「大丈夫? それはこっちのセリフだよ。杏子ちゃん」
『えっ?』
「今のこの世界が? 素晴らしい? なにを言ってるのっ?」
『えっ? な、なんで? 私は藤花の為に、ゼロワールドを作って……』
「やめてぇっ!!!!」
『な、なんで? ねぇ? 藤花!』
「杏子ちゃん……ぶっ壊れてるよ」
『ぶっ壊れてる? 私が? な、なんでかなぁ? あはは……』
2人の不毛なやり取りを見ていたフロッグマンが、天を見上げた。
『黒宮。すべては5年前、俺がお前に『方舟様いじり』をした所から始まったんだよ。ゲロッ!』
───── 5年前
「ひどいと思わない? 毎日だよっ! 方舟様をバカにしてさぁ!」
藤花と杏子は、ほぼ毎日一緒に学校から帰っていた。このところ、永遠の方舟の事で藤花をからかってくる男子がいるという話がメインだった。
温厚な藤花が怒っている。その姿が杏子はかわいくて仕方なかった。
「その加江君? 実は藤花の事好きだったりして!」
「やめてよぉ! あんな奴マジでいなくなってほしいもんっ!」
「いなくなって?」
「うん。大嫌い」
「ふ〜ん。加江昴瑠かぁ」
「今日はさすがにむかつきMAXっ! 方舟様に言いつけてやるんだ! そしたら、あいつも変わるかも知れないし!」
「そうだね。方舟様にお願いしたらいいかもね……」
「杏子ちゃんもお願いね! あいつが改心するようにさっ!」
「うん。分かったよ……」
その後、2人はたわいのない話をしながら帰った。
「じゃあねー! 杏子ちゃん! バイバーイ!」
「バイバイっ!」
杏子は藤花と別れ、マックに寄った。チーズバーガーセットを注文すると店内でサクッと食べて帰路についた。
(藤花ってば、永遠の方舟なんか信じちゃって。方舟様が大好きなんだね。まっ、そこがかわいいんだけど♡ あー久しぶりのマックおいしかったぁ〜)
杏子はこの頃には既に、永遠の方舟の事なんて全く信じてはいなかった。そもそも、一度たりともお化けやサンタすら信じた事のないドライな子供だったのである。
大好きな藤花と一緒にいたい。その一心で永遠の方舟を信じている『ふり』をしていたのだった。
そして今日、藤花から加江昴瑠による方舟様いじりの話を聞いた杏子は、ある行動を実行に移すのだった。
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